どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。
今回は『無名の人生』。個人製作ながらかなり人気になっている印象ですが。
WATCHA4.0点
Filmarks3.8点
(以下ネタバレ有)
鈴木竜也監督がほぼ独力で作り上げたというアニメーション長編。『JUNK HEAD』とか『忘星のヴァリシア』なんかもそうですが、こういう新海誠に使われた形容詞的な「独力で作り上げた」という文言を多用できること自体がアニメーションを作るという選択肢が多様になってきているという証左でありますね。
物語はまさしく「無名」ということでなんでもない男の人の生涯の話…なのかと思わせておいて、人生というものの無名性、名前という概念そのものを人生を通して描き出すものでした。名づけの物語が好きな私好みですよね、めっちゃ。主人公というか、視点人物はクロ。父親が元有力グループアイドルのリーダーだが芸能界を追放され、連れてってくれたタクシーの運転手の女性と結婚、生まれたのが主人公。だがその母親も事故で亡くなり、主人公はそのショックでほとんどしゃべらなくなってしまう。っていうここまでのアヴァンタイトルの話がほとんどセリフ無しだったはずで、アニメーションが超絶技巧、というわけでもなくまさにインディーズアニメというルックながら、演出と省略の妙で見事に語ることに成功していることは強調しておきたいところだ。この省略と演出のある種の抽象性は映画全体を支配することになり、それ自体が省略されることによって時代が進む、その度に呼ばれる名前の変わる主人公のぶつぎり感と寄る辺なさを表現することに寄与したと思う。
主人公は色んな名前、あるいは属性で呼ばれる。勿論、親-息子の関係もそうだし、クラスメイトからは無言で気持ち悪がられ「死神」と呼ばれ、転校生からはせいちゃんと呼ばれる。芸能事務所に入ってからはクロと呼ばれ、それを退いてからは麗人というホストとして暮らし、そして別の名を呼ばれた時がその人生の終わりである。彼は半殺しで袋詰めで捨てられた場所で生き残り、その土地で「神様」となる。ようやく保護された段階で起きた大臣によってすべてがリセットされ、彼はZENという俳優だかクリエイターだかという存在に変わり、フリーアナウンサーと結婚することになり妻-夫という関係性もまた、獲得する。日本が戦争に巻き込まれ、地下シェルターで暮らす中でクロとZEN(であり、彼の演じたイナズーマンというヒーロー)が「あなた」としての生活に迫ってきた段階でやはりその生活は終わりを迎えて、彼はそれまでの呼称を振り返る旅路に出て、この映画で一体何度目だろうかという疑似家族の形成、そしてハルマゲドン的な人類滅亡の果てに宇宙人に保護され「人間」と呼ばれる。自分はただ存在しているだけではあるのに、なんらかの名前や関係性に固定され続けるのが社会であり、しかしそれに抗い続けたことで、彼は主人公足りえたのだと思う。
最後には宇宙人まで出てきて周りの人みんなが死んでいっても生き残ってしまった主人公のことを語るのもそうだが、ここまでストレートに旧ジャニーズ事務所における性加害問題を描いた作品が公開された、ということも触れなくてはならないだろう。多くを省略で見せ、言葉で語ることを減らしている映画において「あの階段を上った」という事実が金ちゃんの口から吐露されたことで、階段を上り、それを見た仲間が首を振り、そして本番直前にフォーメーションが変更されるという性加害、いやもっと悪質で醜悪なそれが少なくない比重で描かれていることは間違いない。半殺しにして穴に放り込んだり、トラックでコンビニに突っ込んでしまう老人だったり(これももしかしたら池袋の事件から着想しているのかもしれない、という邪推)と同じ、人の人生を奪ってぶん殴られる対象なのだ。勿論、この映画で描かれた事象が完全に事実であったかどうか、性加害の認定と、それに伴う抜擢やらが実際に遭ったのかは別の話であり、実際に活動している出身タレントの方たちに重ねることはあってはならない、ということも添えておくべきである。
そんなことよりである。一体全体シンクロニシティの西野さんはどこにいたというのだ。クズの声がそれっぽいな、と思っていたけどクズは中島歩がやっているのが笑うわって月初めにブログに書いた記憶があった。『無名の人生』のHPによるキャスト紹介、西野さんの紹介なのに、相方よしおかさんが元晴天サンティであることまで書いてあって解像度にびっくりする。ナイスアマチュア賞ですよ、なぞなぞだ!の晴天サンティですよ、お笑いファンよ伝わっていますか。