抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

落ちるのはあっという間「悪い夏」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 公務員、闇堕ち、というキャッチコピーですが公務員どころかその上が堕ちてる国になってる気はします。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

 早くも2025年の城定秀夫監督作品2本目。いや『嗤う蟲』を見逃したのは申し訳ない。流石多作の監督さんでどんどん撮っていきますな、っていうのは思いますが今回は脚本に向井康介を迎えての公務員サスペンス。原作者は『正体』と同じ方なのですね。『正体』もネトフリに来たから見ないとなー。

 題材としては生活保護。主人公の北村匠海は純粋なタイプの公務員で、生活保護ケースワーカー。同僚の毎熊克哉が保護対象者の河合優実を脅して肉体関係になっていたことからまあそりゃ可哀想な転落の道を歩んでいくことになる訳でございます。まず基本的にそういう転落していく話として北村匠海の演技が基本的に良い。一緒に地獄で落ちようぜな河合優実は、自分の意志があんのかないのか彼女もまた巻き込まれていくタイプのシングルマザーで、その演技が十全にできることは『あんのこと』で分かっている訳ですが北村匠海もまた変化をうまく表現できていた。完全に糸が切れて以降の窓口業務でのイラつき方とか、流石である。

 基本的には糸が切れてしまう瞬間を描こうと注力している映画であり、そのまさに!な場面自体は北村匠海がただいま~と帰って窪田正孝が声をかけてからの一連に勿論渾身されているのだが、毎熊さんも悪事がバレた瞬間、包丁持ってドア開いた瞬間と何段階かでやっぱり糸が切れた状態を見せてくれている。そして何よりも見る前に最大の注目点だった伊藤万理華河合優実とは『サマーフィルムにのって』以来の念願の共演だったと思うのだが、彼女がブチギレている瞬間の口角の上がり方、完璧だったと思う。どう考えてもやべーやつだろ、というぐらい毎熊さんにこだわっていたのでそういうことだろうな、と思っていたとはいえその狂気性は見事で、やっぱこの人の演技は信用できるなぁと思わされました。はじめっから糸が切れている人として描かれる窪田正孝箭内夢菜は割とテンプレな悪役ではありましたが、彼らがそこでそうしていることでこの世界は上に這い上がることより何倍も下に引き摺り下ろす方が簡単なんだっていうことが分かる話ではありました。

 そう世界。なんてこの世界=今生きている日本、っていうのはゆがんでいるんだろうっていう悲痛な叫びでもあって、それをエンタメにきちんと落とし込んではいる、ように思えます。何と言っても生活保護という、はっきり言ってこの国で不当に叩かれているようにしか見えないセーフティネットを扱うにあたって、受けづらくなるような方向には決して矢印が向いていない。そうではありながらも、明確に生活保護が十分に機能していない現状を憂いてはいる。この映画で最も可哀想に映る木南晴夏親子が公園で水を汲んでいる時、後ろで日焼け防止の帽子をかぶったママたちのもと、子どもたちは水鉄砲で遊んでいる。水資源の使い方。ここは本当にいいシーンだなぁと思わされました。

 そうした世界が一発に詰め込まれるラストの同じ部屋に集まるところは今泉力哉的な部屋集合大激論シーン、かに見えて実は子どもは変わらず隣の部屋で絵を描いていて。大人たちが醜く自我を失い引き摺り下ろし合っている中で彼女は彼女でいて、だから最後は助かるというか。この今が如何に歪んでいて、ギャグみたいな大雨が降って、でもこの先を信じれる存在として子どもは存在していた…はず。そうそう、隣であんだけやられてたら子役は大変だなぁ、脱いでるシーンもあるしなぁ、と思ったらちゃんとインティマシーコーディネーターが入っていました。そういうの、こういう映画を見るときに本当に安心するのでどんどんやっていってほしい。

 とはいえ、そこに持ち込むまで、すなわち北村匠海の糸が切れるまでの1時間は色々裏で蠢いてはいるものの、北村匠海にとってはシンプルな純愛ラブストーリーの時間が流れているわけで、そこはもうちょっとうまく捌いても良かったような気もする。