抹茶飲んでからマラカス鳴らす

見た映画、読んだ本、見たアニメ。そんな話を中心に。。。

「デトロイト」が描いたこの世の地獄

 どうも抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 新年明けてから、パディントン2をスルーすることを決めたのをいいことに過去作をガンガン見てました。

 2018年一発目に見た映画はキャスリン・ビグロー監督最新作にしてアカデミーのノミネートからなぜか漏れてしまって、アカデミー賞最有力の煽りが誇大広告と化した映画「デトロイト」です。早速来ました。去年だったら作品賞とったと思うんだけどなぁ…

 今年ベスト級です!! 

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WATCHA4.5点

Filmarks4.7点

(以下ネタバレ有り)

 1.今そこにある悲劇

 結論から言って素晴らしいこの映画。

 まず注目したいのは、メインテーマとなるアルジェ・モーテルでの惨劇が起こるその前です。始まりはアニメーションから。デトロイト暴動に至るまでの人口移動やゾーニングを解説しアメリカ史に疎くても大丈夫。そしてそこから暴動の端緒を描き、流れるままにアルジェ・モーテルへ話が流れていく。

 この助走部分で惨劇の種がどんどんと蒔かれていきます。抑圧されつづける黒人たち。窓から覗いただけで銃撃される緊張状態。黒人を後ろから射殺するクラウス。そしてその中で出る黒人は足が速いという差別発言。この後に起こる悲劇の前フリがずっと続くことで、アルジェ・モーテルでの出来事が起こりうることを我々は認識します。

 そしてアルジェ・モーテルでの事件。無論、見るのが辛い約40分の拷問シーンですが、この殆どで音楽がかかりません。更にはカメラワークも相まって、まるで自分もそのモーテルにいて一緒に脅されている。そんな没入感を与えます。昨年のダンケルクが戦争体験映画に近いものでしたが、本作は拷問体験映画、もはやホラーといってもいいかもしれません。

  戦争体験映画「ダンケルク」の感想はコチラ↓

tea-rwb.hatenablog.com

2.アルジェ・モーテルの夜

 メイン・パートともいえるアルジェ・モーテルの夜。

 見ていて非常に辛いわけですが、その理由はやはりあまりにも惨い拷問です。1人ずつ隔離し、殺したフリで喋らせようという残忍な手口。祈りを捧げさせ、それを嘲笑。ナイフを拾わせ、正当防衛で射殺しようと誘う。考えられる限りの卑劣な手をデトロイト市警が使って我々と宿泊客の精神を攻撃してきます。警察の暴力が行き過ぎたものにならないようについていったディスミュークスも、無力…。やはり一人ではどうしようもありません。

 クラウス、フリン、デメンズの3人の警察官の演技は素晴らしいものがあり、ゲーム(この言い方も差別的で嫌になる)と理解せず殺してしまった後のデメンズは良かったです。ただ、間違いなく拷問を主導したクラウスを演じたウィル・ポールターの熱演を語らずにはいられません。幼さと狂気が同居したその表情。イライラしているさまが丸わかりの立ち姿に言い回し。まるで、役者本人と役の思想が共鳴しているかのような演技は鳥肌もので、実際に彼が黒人のなかに放り出されたら、無事でいられるか不安になるレベルです。なぜ彼が助演男優賞にノミネートされなかったのか不思議です。彼の名誉の為に言っておけば、この撮影中に辛すぎて泣き出してしまうほどいい人なので、覚えておいてください!

 また、ここでは市警だけが悪ではありません。暴行を目にした州警察は人権問題に絡むからと、見て見ぬふりをして撤収します。この場面の描写によって、傍観もまた悪であると名指ししています。

 ここまで心を抉る場面になったのは、実際の被害者が制作に参加し、ほぼ完全再現を目指したから。これほどの事件です。50年経ったとはいえ、傷が癒えているとは限らないし、癒えていても古傷を痛めつけることになるのに制作に参加した、その心意気を思うだけで胸が締め付けられるようです。

3.本当の地獄

 この映画が辛いのは、事件そのものだけではありません。

 アルジェ・モーテル事件は立件されるも、ディスミュークスが容疑者扱い。最終的にクラウス、フリン、デメンズの3人は起訴されますが、被害者たちが法廷に立ったにも関わらず、3人とも無罪に終わります。クラウスは上司からなじられますが、これは白人ー黒人の支配関係が、警察ー被疑者の関係になっただけで、この上司が人種差別に怒っているわけではなく、構造上は黒人差別と何ら変わりません。

 裁判において、白人弁護士が、被害者たちの証言を不確かだとして攻めていくのは理解できるんです。誰もが「ブリッジ・オブ・スパイ」のトム・ハンクスのような正義の弁護士ではないし、「三度目の殺人」の福山くんも当初はそうでした。ただ、全員白人の陪審員たち、そして全く反省していない3人。そして被害者たちはこの事件後も警察から銃を突き付けられた状態で過ごすのは変わらない。まさに地獄と言っていいでしょう。

4.現実の地獄

 この映画を見て、辛かった、こんな事件があったんだね。で終わらせてはいけません。なぜ、この映画が今、作られたのか、考え、感じなくてはいけないと思います。

 映画評論家の町山智浩さんによれば、現在アメリカで警察官に殺される黒人の数は年間300人ほど。70%が武器を持っていない状態で殺され、起訴される警察官は1%。この映画の地獄はまだ終わっていないのです。

 でも、アメリカの話でしょ?と思った方がいれば、それはとても残念なことだと思います。差別や支配構造の問題は、例えばベトナム戦争。例えば、ヨーロッパの移民排斥問題。そして当然日本におけるヘイトスピーチ問題や、部落民差別などなど。あるいは日本の警察も暴走していないか。冤罪事件、自白の強要。問題は山積みです。

 この映画の警察の銃口は黒人たちに向けられました。でも、その銃口はいつ私たちに向けられるかもしれない。あるいは、いつ私たちが銃口を向ける側になるかもしれない。差別する側に立つか、される側に立つかの線引きは極めて曖昧なのだから。