抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

東海テレビが自社を撮る「さよならテレビ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 映画館初めの3本立ての1本目。

 数々の傑作ドキュメンタリーを生みだす東海テレビが、今回カメラを向けたのはなんと自社の報道局。テレビの今を「切り取った」ドキュメンタリー作品でした。公開初日から東中野ポレポレが満場なのも納得です。っていうかあそこ、補助席として通路に座布団敷く席があるんですね。初めての光景でした。

 やっぱり土方監督の「ヤクザと憲法」、見たいなぁ…

WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

(以下ネタバレあり)

 1. 民法テレビ局の現状と限界

 今回のドキュメンタリーの主人公と言っていいのは3名。夕方の帯番組のメインMCを務めている福島アナウンサー、契約社員の記者澤村さん、そして補充人員でやってきた制作会社の派遣記者の渡邊くん。

 まずドキュメンタリーなのにそれぞれの人物が非常に魅力的。そしてそれぞれに、報道の使命として繰り返される①事件・事故・政治等の周知②弱者を助ける③権力の監視が当てられている。

 福島アナは局として推していく、と決められキャスターとして自分の意見を表明することを求められるが、自分には向いていないと葛藤する。そこには、途中で明かされるかつての「怪しいお米セシウムさん」事件の影響が。出役なのに喋りたがらない、フリートークで30秒尺を取ったら、15秒しか喋ってくれなかった、みたいなことを裏で言われ、結局は視聴率が取れず1年でその任を解かれる。番組では覆面座談会なのに一人顔出しになった映像が90秒近く映ってしまったことも問題視され、かつてのセシウムさん事件の傷が痛む。

 その後は、降板が決まってからの自分発信の猫の殺処分特集で饒舌になり、最終回で噛んでしまう。新番組で街ブラリポーターとして今までに見せなかったノビノビとした姿を見せるし、そういえば、途中でインタビュー中に帰りを心配した奥さんからの電話の際に見せた家庭人の顔もあった。人間である以上当たり前だが、非常に多面的な側面を見せてくれ、現在のテレビの抱える視聴率主義を教えてくれる。

 「働き方改革」がテレビで叫ばれる中、実は人が足りていないのが放送局。三六協定の順守などの為に、追加の派遣社員としてやってくるのが渡邊くんだ。だが、彼はどうも最初の挨拶からボンクラ臭が漂い、わざわざアイドルオタクである一面まで見せて出来ないやつ、というスティグマが植えつけられる。そして彼は案の定仕事でミスを繰り返し、上司に叱られている。冷麺のレポートが上手くいかず、何度も撮り直しになり、彼が組んだ特集「ポケモンGO」の今、も放送前にインタビュー対象者との合意が取れずにお蔵入り。結局、1年で契約は延長されない。彼には弱者の役割が与えられ、メディアである以前にテレビ局も会社なのだ、ということを思い知らせる役割である。

 澤村記者は、彼の部屋でのインタビューや独自取材のシーンが印象的だ。彼の部屋の本棚にはジャーナリズムに関する本が並び、彼が様々な講演会に通い勉強熱心なことが伝わる。そして飲み屋では、メディアの持つ使命について語り、独自取材としてマンション建設反対運動をしていた奥田さんが逮捕され、起訴された事件を共謀罪と絡めて扱う。「テロ等準備罪」と表記するのか「共謀罪」と表記するのかが、メディアのスタンスが問われると語る先には東海テレビが「テロ等準備罪」とスーパーを打つ様子が。Z印のつく、営業部が是非と言ってくる提灯取材と言っていいようなものある。そんな彼からは、テレビ局がメディア、報道機関としての権力の監視の役割を果たしているのかという提起が感じられる。

 こうして、3人に巧みに割り振られた役割を見事に担当して、現在のテレビ業界が抱える問題や、メディアが持つべき規範意識を問うているように見えるし、その試みは一定以上成功している。だが、問題はこの先だ。

追加だが、バレンタインデーぐらいでしか若手女子社員が映らないのも時代と違くね?感が凄い。働き方改革同様男女平等も達成されてなさそうな地獄。

2.撮る・撮られるの逆転

 今回のこのドキュメンタリー、何回か非常に意地悪なところがある。

 監督の土方さんは、福島アナに対してリスクを冒さずして表現することは可能なのか?などと問い、メディアとしての自覚を促すように介入していく。

 だが、そもそも冒頭で報道局の机にマイクを仕掛けるなどした際には、報道局の面々は何の意図で?と撮られることを嫌がり、恫喝に近いカメラを止めろ、という言葉も出た。

 また、澤村記者は最後の密着で途中でも聞いていたことをまた問いかける。このドキュメンタリーっていったい何のために撮っているのか?土方さんは沈黙し、こういう介入の時だけ、カメラは土方さんを映す。ドキュメンタリーでカメラを構えた側が問われる側に逆転して、そして答えられない、という構図は非常にカメラが意地悪だ。そもそも、カメラを構えた土方さんは東海テレビの正社員なのだから。

 澤村記者の最後の言葉は非常に胸に刺さる「テレビの闇ってこんなもんですか?」

www.cyzo.com

3.ドキュメンタリーは嘘をつく

 さあ、ここからが超特急のネタバラシだ。ドキュメンタリーなのに見事に3人が役割を担当しているのにはわけがあった。ちゃんと密着するうえでの趣旨を渡邊くんや澤村記者に説明しているし、奥田さんとのインタビューにおける共謀罪企画は土方さんが澤村記者にけしかけたものだった。お金を借りていて経済的にも弱者であることを象徴する場面でお金を貸していたのは土方監督だった。

 途端に我々は、何が真実か分からなくなる。

 もしかして、悲劇的に描かれた渡邊くんは当初から有期雇用で1年限りなのを宣告されていたのでは?働き方改革の場面でわざわざ警察署と書かれた看板の後に映る人影と音声のみの、いわゆる夜討ちの場面は本当に警察官との会話なのか?契約社員の澤村記者が渡邊くんの面倒を見ているように見えるシーンもただの演出では?
ドキュメンタリーは構えたカメラに映ってしまったものと映そうとしたものがある。まして、想田さんの観察映画と違って、ガンガン介入していくから当然だ。福島アナの降板やセシウムさん事件の再来か?という瞬間も偶然撮れてしまったタイプのものだと思う。でも、ドキュメンタリー映画だからって映るすべてが真実とは限らない。

 ドキュメンタリーは嘘をつくのだ。 

ドキュメンタリーは嘘をつく

ドキュメンタリーは嘘をつく

  • 作者:森 達也
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: 単行本