抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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ゲイリー・オールドマンの名演光る「ウィストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 レディプレとリズのTLでの評価が高すぎて楽しみ。そして、いよいよインフィニティウォーが公開されてとんでもない騒ぎの頃合いでしょうが、忘れないうちにこちらを。日本人メイクアップアーティストの辻一弘さんがオスカーを受賞したことでも話題のチャーチルです。

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 (字幕版)

WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有り) 

 1.まさしく「Darkest Hour」

 こちらの作品は原題が「Darkest Hour」といいまして。直訳すれば暗黒の時間ですが、よくある感じに邦訳すると欧州の一番暗い日とか、暗黒時代とか、その辺でしょうか。この映画はその殆どを通してその原題を体現している映画だったといえるでしょう。無論、これはヒトラーに欧州が陥落されそうな時期という意味ですが、屋内がとても多く、画面がかなり暗め。政府の主要施設も地下にありますし、チャーチルの家もカーテンを閉めている。見せ場となるのも議会での演説なので、決して派手な映画ではありませんでした。(だからダメとかそういう話じゃないですよ、念の為。)

2.実話に異を唱えても仕方ないが…

 話はチェンバレン首相が議会からWWⅡの責任を問われて辞任するところから始まります。野党も参加する挙国一致内閣において、首班を務めるのは与党内でも後継指名された外務大臣ホーリーフォックスこと、ハリファックスかと思われましたが、これを固辞。野党も合意するのはチャーチルだけだ、となるわけです。

 ここでまずどうしても引っかかる。チャーチルのみが野党と合意できる人物だというう裏付けが全くないうえに、チェンバレンの口からしかそれが語られない。せめて野党労働党党首にそれを言わせてほしかった。

 閑話休題。その後チャーチルは挙国一致内閣を組閣、ヒトラーとの徹底抗戦を命じるが、和平交渉を進めようとするチェンバレンハリファックスの抵抗にあい、和平の道を探ることに。しかし、自分を嫌っていると思っていた国王がまさかの味方になってくれ、更に地下鉄で一般市民のいうことを聞いたことで思い直し、徹底抗戦を改めて心に決め、チェンバレンが折れるということになりました。

 シンプルな話、チャーチルチェンバレンハリファックスといった登場人物たちにどうしても乗れなかったのが正直なところ。彼らの主張自体は納得できますし、たとえ相手がヒトラーであったとしても講和の可能性を潰して戦うのはあまりに愚策。チャーチルの主張するそれを人は蛮勇とか、無謀と呼ぶのです。そんなチャーチルは冒頭で情緒不安定を印象付けて、前半はずっと酒を飲み、そりゃ信頼されないよという感じ。ここからの逆転がかっこよければいい前振りなんですが、それは後述。

 政策面でチャーチルをヒロイックに描くことに納得がいっていないのに、政策的に合致するハリファックスたちが気に入らないのは最も私の重視する手続き論的立場から。責任をとって辞職した前首相と首班指名を固辞した人間が首相を裏から操ろう、ってそれはダメですよね。ってことで、何の思い入れもない人たちがやってる政治劇なのでどうしてもそこまで入れ込めずでした…。仕方ないですけどね、政治の世界の実話モノならそうなるので。ハリファックスとかがもっと言ってることも法スレスレの悪党ならスカッとしたりするんでしょうが。

3.結局衆愚政治では…?

 この映画最大の見せ場は、チャーチルが移動車を抜け出し地下鉄で民衆の意見を聞いて自分の意見を通すことを決め、そこからの大演説だと思うのですが、ここにすっきりできませんでした。

 私は、政治の決定プロセスにおいて最も避けねばならないのはただの多数決に陥ることだと思います。そのために、我々は専門家としての側面を持つ代議士を選出し、彼らに意思決定を任せます。その意思決定の中に感情が介在することはあってはなりません。金正恩を暗殺するべきだと世論の90%が思っても実行しないのが政治です。

 そんな中で、チャーチルは民衆の声を聴いて最後まで戦うことを選択します。無作為抽出された世論調査ならまだしも、適当に入った地下鉄の1車両だけではそれが国民の総意といえるのでしょうか。大体、チャーチルをほめる言葉として出てきた「言葉の魔術師」。確かに演説はうまかったですが、それだけならヒトラーと別に同じですよね。そこの差別化も特になかったように感じました。

 ところでチャーチルが地下鉄で意見を求めたきっかけは前夜の国王の訪問でした。敵対していると思われた国王はチャーチルの意見を支持することを表明し民の意見を聞けと提言したわけです。直前でヒトラーとの講和を模索するように指示をだしていたチャーチルは100万の味方を得た気分でしょう。でも、これってつまり国王が味方に付いたから劣勢だった私の主張を復活させちゃおう!ってだけの話だし、責任の所在が自分じゃなくなったから元気になっただけ、ともいえると思うんです。それってどうなんでしょう。例えばコレがタイプライターのレイトンとの交流の結果、高慢だったチャーチルが民に意見を求めるようになった、ならいいと思うのですがそうじゃないんですよね。レイトンはチャーチルの世間知らずさとお茶目さを示す役割に終始してしまいました。

4.話以外の素晴らしさ。

 全体的に2018年の今、描く必要があるのか不思議に感じてしまう映画で、乗り切れない作品でしたが、素晴らしかったところは無数にあります。

 まず、なんといってもゲイリー・オールドマンの演技。役柄自体に納得はいっていませんが、演技の点で見れば完璧だったといっていいのではないでしょうか。そして、当然彼へのメイクをほどこした辻さんも素晴らしい。チャーチルと写真を比較してどうしてここまでそっくりにできるのか、神の御業とでも言えばいいのでしょうか。

 それからセットなのでしょうか、当時のイギリスの街並みや民衆の様子、小道具なんかも最高でした。特に2度ほどあった車の中から人々を見る、という描写のシーンは見ているだけで息を飲む美しさ。

 というわけで、4月のすげー映画ばっかりであまりやっていないかもしれませんが、まだ見れるならぜひ見て損はないかと思います。