抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

法が人を守るのか、人が法を守るのか「PSYCO-PASS PROVIDENCE」感想

 抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 PSYCO-PASSの新作映画です。3期の映画は、ちょうどコロナで映画館が閉まる1週間前公開だったことを覚えています。なお3期の映画より3期自体を見直したくなります。

 ずーっと痛覚マスキングしてる虐殺機関みたいなもんじゃねぇか、冲方さんまんますぎるぜ、って思ってました。あとなんだよ、あの出島の施設。私書箱だと思ったらジョンウィック3みたいな武器展示があって、ホログラムの原っぱって。入国前の居留地地区に何の必要のある施設何だよ。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有)

 

1.未来の話の続編の前日譚

 いかんせん位置づけがむじぃ、というのが正直なところ。前回のまでのPSYCO-PASS!ってなると、3部作からの1話1時間の3期やって3期の映画やって、で3部作の恩讐の彼方にと3期の狭間の出来事を今回映画化すると。基本的に前日譚ものってどうしたって難しいのは間違いないんですが、今回もそこを打破できなかった印象が強かった。最終決戦に向かうメンバーも外務省行動課として3期で登場したメンバーなので、なんらかのケジメになるんだろうなぁ、とかでもこのメンバーは誰も死なないよなぁ、雑賀先生は雑に殺されたけど、六合塚さんも杜恩さんも死ななかった3期だし死なないよなぁ。慎藤本部長は3期の前で死んでたから死ぬよなぁ、土師さんの声の本部長は死ぬなぁ、大塚明夫は3期で執行官やったからこのキャラは死ぬなぁ。外の文脈でこれだけ生死をふわっと予想できるサスペンスのどこに緊張感があるというのだろう。つまりはこの映画が企画された時点での敗北なのだが。これらが全て3期の放送前にやる映画であればわくわくするのだが、まあ違うので答え合わせにしかならない。FIRST INSPECTORが結局常守の復活に使われてしまった段階で、3期開始時にした実験は失敗に終わり、もう一回常守と狡噛さんの話に戻すための映画でしかなく、即ちPSYCO-PASSという鉱脈をまだ放したくないです、という物語ではないところからの要求で出来上がってしまった作品に思えた。

2.問いに対して答えが欲しかった

 正直ね、問いはめっちゃ面白いなって思ったんです。シビュラシステムが万能であるという前提に立った社会において、法律の意義はなんなのか。もっとここをつきつめて会議シーンが長くていい。まず前提として、この作品が間違えているのはシビュラシステムは人間の犯罪係数を測って犯罪を未然に防止したり、職業選択や婚姻なんかを最大幸福になるように決定していく、というものであっておそらくは万能法ではない。どこからしら必ずシビュラだけでない部分があり、実際シビュラだけで決められないから法律の廃止を人間が話し合っている。で、実際のところ話し合われていたのは事実上の刑法の廃止と法務省の解体であって、例えば厚生省の解体、国防省の解体、外務省の解体といった話は出て来なかった。だが、現在の日本の延長線上にある以上、こうした行政機関も○○省設置法のような法律によって定義をされる存在であり、法律の全廃っていうのはそういう行政機関の廃止を意味する。あ、カリナ、マカリナの東京都知事なんかも罷免だろう。法律の廃止、シビュラへの委任というのはそういうことだと理解している。この作品では、そこの前提が抜け落ちた。

 しゃーない、その上でシビュラシステムに対して法治主義、法の支配なのかっていう議論であり、このシビュラ国家にあって主権は誰にあるのか、という政治制度の問題を孕んでいるでしょう。ここに対して、常守朱は人を大衆の面前で殺したけれど犯罪係数が上がらない、即ちシビュラの不完全性を指摘することで、一般的な刑法犯として収監される選択をとる。これで一般法の廃止はされず、シビュラ主権を否定するという流れ。思想的にはすっごい分かるんだけど、こーれは乗れない。シビュラに対して免罪体質を持っていた槙島、慎藤といった面々に色相の濁りづらい常守、死体の集合形だった2期のボス、自分の手を汚さず選択させてた賢雄さんのキャラ、別のAIに肩代わりさせることで色相を保った今回の連中、これだけシビュラに対して対抗できる存在が出てきてしまった以上、シビュラシステムが完璧でないことを示すことは必然であり、そのために誰かを殺す、というのは常守朱の目指した正義だったのだろうか。少なくとも、そうは思えない。1期で彼女は引き金を引けずに狡噛さんは潜在犯になり執行官となった(今やそのことも軽い扱いだが)。これまたこのコンテンツを生き延びさせればさせるほど、シビュラの適用外の敵にせねばならぬ問題だ。で、彼女なりにそこと同じ土俵に立ったといえなくもないが、それは本当に強さなのか。っていうか、人を殺しておいて犯罪係数が上がらない常守を見ても世間は犯罪係数という仕組みに疑問を向けないものなのか。あの後課長にさせられた上に、その張本人の常守を下につけられる霜月には、もう流石に同情しかない。最初は嫌いだったけどあいつはもう許されないと可哀想だ。

 あとシンプルに今回の事件自体はそこと関係ないので話が一本筋が通っていない。もっと思索的な部分を見せてくれ。ピースなんとかがどれだけ暴れようと、独立しようと誰かの正義を揺るがすことは何もない。うーん、困った。つまり今後の解決策としては、もう連続ドラマ式に1話完結で大きい命題の絡まない事件を解決していって最終話が見つかりづらい連続殺人鬼とかもうそんなんでいいんだよな、うん。