抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

直球「夏へのトンネル、さよならの出口」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 本日はこちら、なんだかすっごく『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の匂いのする夏映画。今や9月はまだ夏だもの。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレ有)

1.まさにSF(すこし不思議)

 83分という尺感に見合うように、本作はとってもミニマム。塔野カオルと花城スミレの2人にしか出番がないと言ってすらいいレベル。なんかもう田舎!って感じの海沿いの駅、雨の日に見知らぬ女の子スミレに傘を貸したことでカオルの人生が変わる。そう、シンプルにボーイミーツガールなんですよね。

 そこにありえない、を付け加えてくれるSF要素が「ウラシマトンネル」。もうSFを嗜んでいる方にはお馴染みの言葉でございます、ウラシマ効果から名前を引っ張ってきたこのトンネルは、失ったものを何でも取り戻すことが出来るが、トンネルの中と外で時間の流れが違うのだ。

 良く分からないSF的な装置が出現した時にしてほしいこと第1位である、実験と検証を重ねていくことになるこの2人だが、本当にちゃんと色んな仮定の下、検証を繰り広げた上で、欲しいものを手に入れるための作戦を決行しようとする。まずここに、ちゃんとSFでしてほしいことをしているなぁ!っていう嬉しさがあるし、この地道さはすっごく好きだった『ドロステの果てで僕ら』的なすこし不思議感のあるSFと言える。

 無論、勘のいい諸君なら気付いたと思われますが、ラストは見事にウラシマ効果を利用したラブストーリー的なすれ違いになる。トンネルの中に入ったカオルと外で待つスミレっていうね。直近だと『バズ・ライトイヤー』がウラシマ効果のことみんな知ってるでしょ??って具合に時間をバンバン経過させていましたが、青春と学校っていう小さい世界を舞台にやっているからその日のうちに帰らなきゃいけない、みたいな規模感で進んでいって、最後の10秒間=6時間半のキスだった、がぐっとくるんですねぇ。良き。あと文字打つときにバンバン手が揺れてるガラケーね。スミレさんにスライド式を使っていた私はどこか親しみを覚えつつ、最後の仕掛けのためには確かにその方が良かったね、と。ガラケー伝わんの?の不安は一旦は払拭。

2.直球のジュブナイルをやりきるということ

 もうね、恥ずかしいぐらいの直球投げてるんですよ。クラスでも後ろの席のやつとしか喋ってなさそうな男の子が知らない女の子と会って、その子が転校してくる。で、その子と秘密を共有しつつ、水族館デート、おうちデート、夏祭りデート、喫茶店デートで愛を深めつつ、で遠く離れてから「大好きだ!」に気づくっていうね。ウラシマトンネルが無かったら、本当に見ているこっちが恥ずかしくなるほどの青さ!直球!

 本作の監督を務めた田口智久さんの前作はデジモンのLAST EVOLUTION絆っていう大傑作だった訳ですが、これも卒業、別れ、成長っていうテーマをド正面から扱った作品だった訳で、こういうとんでもないぐらいの直球を恥ずかしげもなく投げれる、という素晴らしい特性の持ち主なんだと思います。そういえば、近作でこれまた大好物だったテレビアニメシリーズの『アクダマドライブ』も色んなギミックを使ってはいましたが、ヒーローになるんだ!っていうシンプルな物語でこれまた直球だったよね、っていうのを思い出しました。

 基本的にはですね、こういうシンプルなものってどんどん難しくなっていくと思うんです。物語がこの世に生まれてもう幾星霜、シンプルで強大なものが古典として生き残って立ちはだかっています。そこに色んな変化球を合わせていくことで複雑化した物語で勝負していく、見たことないモノってもう出て来ない、そういうものだと思っています。そこにたまーにこういう直球で力のあるものを投げられるといいなぁ、と思ってしまうものなのです。