抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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香港定点観測「時代革命」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は定期的にしっかりウォッチせねば、と思っている香港民主化事情のドキュメンタリ映画の記録です。

 3年前の雨傘運動周辺の映画の記録はこちら。

tea-rwb.hatenablog.com

1.時代革命

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WATCHA4.5点

Filmarks4.3点

 さて、今回取り上げるのは『時代革命』という映画。香港では雨傘運動が一旦の収束を見せたものの、中国共産党習近平による強行的な統治の一元化が進み、一国二制度が揺らぐ状態。それを決定的なものとした2019年の逃亡犯条例改正案提出に関する反対デモの様相をしっかりと奥深く迄撮影したものになります。

 はっきり言って、ここで切り取られた風景は地獄、あるいは戦場といっていいもの。雨傘運動の時は、非暴力による道路占拠などが主だったため、そこで生まれたコミュニティのような描写もありました。だが、本作ではもはやその領域は通過してしまい、完全に内戦状態にあると言ってすら良いレベルの描写。

 700万人の人口のうち200万人が参加したとさえ言われるデモは、自殺者が出た段階からどんどんヒートアップし、いつしか非暴力は鳴りを潜めていく。7月21日に地下鉄で起きた事件では、マフィアと思われる軍団がデモ参加者を襲い、そしてそれに警察の出動がわざと遅れたのでは?と疑われる。警察は末端の制御が効かない、とかそういう段階を通過し、組織として暴力を肯定し、市民を害することをいとわなくなる。催涙弾、ゴム弾、放水はもはや協定があろうとなかろうと行われ、拳銃を抜く一連の動作は最新のアクション映画かと見紛うもの。警官たちの間での共通認識が完全に戦時のそれであることがうかがわされる。

 デモ参加者として証言するものの多くは学生で、それは終盤の中央文大と理工大の占拠に関する証言を集めたからかもしれないが、そんな中で陳おじさんと呼ばれた人物の悲痛な叫びが今も心に残っている。彼の眼前で警察によって若者が暴行された時、彼は号泣した。私は私たちの子どもを守れなかった。香港の歴史と共に生きてきた長老の慟哭は、間違いなく世界に届いただろう。

 私たちは、暴力による抵抗や現状変更は許されず、絶対に言論の力を信じ続けるべきだと思っている節がある。いや、それが日本国憲法の理念だし、民主主義とはそういうものだ。だが、そんな理想論は砂上の楼閣、日本の隣国でこの状態なのだ。少なくとも、自由はいつでも、いつまでもそこにあるものではない、と思わなくてはならない。

 実は1番怖い、とはっきり認識したのは冒頭のテロップ。「本作では本人の安全のために覆面の出演者は声を加工している」。これは分かる。結構な数の証言者=デモ参加者はコードネームだし、覆面やガスマスクのままで証言していた。だが、その次には、「こののちに音信不通となった証言者は俳優が演じ直している」。音信不通となった…?もはや香港の現実を撮影したり、証言することは文字通り命がけなのか。いきなり表示されるこのテロップだけで、ここから始まる160分が座して刮目するに値すると言えるだろう。

2.Do Not Split

 本作と同時期に、『乱世備忘』の監督の新作である『Blue Island憂鬱之島』が上映され、他に日本のドキュメンタリーの『香港画』、理工大包囲を描いた『理大囲城』のように多くの視点で逃亡犯条例改正案反対デモに対する映画は色々ある。

 その中でも、2022年のアカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートしていたDo Not Splitの感想を改めて。

コロナですっかり忘れてしまいがちな、香港民主化運動の最近に密着した作品。この映画ののちに、国家安全法が施行され、選挙制度は骨抜きになり、民主化は確実に遠のいている。劇映画でも見られないようなドローンで空撮した対峙するシーンや、カメラマンがもろに警察に追われるシーンなんかはリアルな恐怖が。日本に生まれて良かった、で済ませたくないが、これを中国からの反発覚悟でノミネート5本に入れたことを大きく評価したい。映像的には受賞して欲しい作品だが。

 振り返ってみると、この作品は画の強さに結構力を入れていたんですね。