抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

去る者残る者死んだ者「ベルファスト」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 さささ、アカデミー賞候補も続々と出揃って参りました。今回、その最右翼(なんかこの言葉使いづらい世界になったな)でございます。ケネス・ブラナー監督『ベルファスト』の感想です。Filmarksで当選した試写会のため、公開日前に感想をあげております。

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WATCHA4.0点

Filmarks4.1点

(以下ネタバレ有)

1.『ROMA/ローマ』かと思いきや

 本作は、外側から攻めていくとケネス・ブラナー監督の半生を綴ったモノクロ映画。って思うと、想像ではアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』みたいな、静かだなーな文芸映画、みたいな話を想像したんですが、こーれが大きな間違い。いや、間違ってはいないですけど。めっちゃ面白いエンタメ小噺って感じでした。『ROMA/ローマ』よりもっと分かりやすく面白いというか。

 始まりはいきなりカラーで現在のベルファストの空撮。なんか愉快な音楽がかかってるし、っていう感じで見事に予感していたものからいい意味で裏切ってくる。そこから塀にカメラが寄っていき、一気に上にカメラが持ち上がると塀の向こうはモノクロ、1969年のベルファストになるっていう冒頭は実に軽快で見事でした。

 んで、話としては徹底してミクロ!外でサッカーしていたら晩御飯よーなんて言われて、じゃあねバイバイまた明日、からのご近所さんとお喋りっていう具合に、主人公となるバディくんの目線で徹底して物事を見ていきます。それを示すように、ここでひと戦闘(これが北アイルランドでの重要な宗教対立、紛争なんですが)起こって、そっからバリケードに上るシーンで彼の視点だよって示すためかのような主観視点でございました。そこに限らず、カメラが下から見上げているカットも結構多かった印象ですね。極めて近い印象を受けたのは、『ジョジョ・ラビット』。第二次世界大戦下でも、あくまで子どもの視点で描いた良い作品でしたが、世界の見方はそれに近い。だが、起きていることはナチス政権下でユダヤ人を匿うレベルの生死の境目というよりは、まさに紛争の火種の最中って感じなので、どこか緩やかに日常が残っているタイミング。そのため、日常モノのようなゆっくりとした時間も流れるし、何が起きてるのかを彼は分かっていないので、その説明もないしで、好きな女の子と話したいだの、おじいちゃんおばあちゃんとのお話など、幸せだけど、画面のこっち側ではそれがいつまでも続くとは限りませんよ、みたいな『この世界の片隅に』的な構造でもありますね。

2.ノミネートしたくなるナイスキャラたち

 アカデミー賞には、助演女優賞でおばあちゃん役のジュディ・デンチ、おじいちゃん役のキアラン・ハインズがノミネート。賞レース開始当初は、お父さん役のジェイミー・ドーナンのノミネートも有力視されていましたし、なんなら助演女優賞ジュディ・デンチではなく、お母さん役のカトリーヌ・バルフの方が確実視されていたレベル。まあSAG(俳優協会の賞)でのアンサンブルはCODAでしたが。

 一瞬冷やかしましたが、まあそれは置いておいても、そういう評価をしたくなるのも納得で、演技レベルが基本的に高いうえに、キャラとして愛おしい人が多い印象。ジュディ・デンチは完全に作品のトリを任され、そこを言い切ったっていうとこはあるでしょうが、おじいちゃんはかなりセリフが良かった。バディくんの好きな子についての恋愛相談をしながらおばあちゃんにまだデレデレしてたり、宿題の面倒見てたら数字をごまかして1にも7にも見れるように書け、なんて言ったり。ただ、しれっとこういうことやってる時に選択は大事とか、正解が一個なら紛争は起きないとか、結構大事なテーマの部分を担ったのもおじいちゃんなんですよね。それで亡くなるので役としてはおいしい。

 ただ、この映画見てカトリーヌ・バルフを評価できないのはダメじゃないっすかね。住み慣れた、どころか、生まれ育ってベルファストしか知らない彼女が、ロンドンに出稼ぎに出ている=その外の世界を知っている旦那の説得に対して悩み、葛藤する。人生のすべてがあるこの街を捨てたくないけど、でも目の前で起きている戦争に近い事態は息子たちのことを考えたら絶対に良くない。去る者、残った者、死んだ者。突然目の前で起きた、しかもどちらかと言えば、どうしてそうなるのか分からない戦闘で故郷を離れるかどうかの決断を迫られる。本来なら、たくさんノミネートされたね、で終わるかもしれない作品でしたが、今、アカデミーが選ぶならこの映画が一番適したメッセージを送っている、そう思った昨比でした。