抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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悲劇で喜劇な対話「偶然と想像」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 本日はオンライン試写で拝見したベルリン受賞作。実は同日に「ラストナイト・イン・ソーホー」の試写も当たったんですけど、時間が被ってるんですね。こういうのはぶつかっちゃうもんですが、それを後悔させない作品でした。公開館数が少ないですが、是非見てほしい作品。これ伝わるかな、濱口竜介なのにストレートに面白いです。

映画チラシ「偶然と想像」短篇集 監督・濱口竜介 古川琴音 中島歩

WATCHA4.0点

Filmarks4.2点

(以下ネタバレ有)

1.魔法(よりもっと不確か)

 もうね、流石濱口監督、って思うんですけど、なんか渋谷?で撮影からの送迎車の中でいきなり10分ぐらい車内で話してるぜおい。ドライブ・マイ・カーの時を思い出す後部座席の会話っぷり。相変わらずカメラが2人を映しっぱだから、ほんと何分回してたんだ、っていうね。

 で、会話をずっと聞いているうちに、まさかと思ったけど、マネ?の子の魔法の相手が古川さんの元カレという展開。んで、そっから今度は元カレと徹底会話。とにかく第1話は徹底して対話です。カズとつぐみの関係性は魔法で、カズとめいこの関係性は呪いとして表象され、「お前」「つう」という愛称を相手に取られると怒る。改めて、言葉って呪いだな、と思いました。そういう言葉が呪いなのを散々やっておいて、なんでも言語化迫るウーマンと化すめいこ。古川琴音さんお見事。でも彼女のおっしゃる通り、会話にリズムがあって、あれ、もしかしてこの2人は愛し合っているような、なんて言う風に見える。

 ずーっと密室の会話劇だったからこそ響くのが、2人の対話を終了させるきっかけになる女性社員が帰ってきてからのセリフ。追いかけようとしたカズに対しての「ダメなのそれ?」「ダメに決まってるじゃないですか」の応答が非常に印象的。ある種の親密空間(事務所兼住居なのでなおさらの親密空間)に入ってこれるからゆえの正論ブレイクですよ。

 これで、カズがどっちを取るか、みたいな感じかなーと思ったら、カフェでお茶している時に鉢合わせちゃって早速の絶対言語化するウーマンによるバーサーカー状態。フツーにここは怖かった。

 が、カズはめいこを選択せず、つぐみを追いかける。泣くのかな?と思ったら、時間が戻って、そさくさ退散、選ばれなかったんならそうしますって感じで、それを悟っての想像でした、ってパターンっぽいな、なんて。

2.扉は開けたままで

 何やら始まったゼミのディスカッションテーマは「他者」。めっちゃ濱口さんがやってるテーマですよね、空間と他者。

 物語としては、留年した男と社会人入学の人妻の不倫。キスはさせない一線。で、留年させた大学の先生が芥川賞受賞。アナウンサーの内定持ってたが、必修のフランス語を落として留年。自分がそのニュース読んでる想像なんかしちゃって。で、復讐にセフレにハニトラしかけるぞ、お前完全無視すっからなの脅し。ここまで悪い奴も珍しい。

 さて、この復讐対象となる瀬川先生は常にドアを開けたままにさせる。他者を意識させ続ける、社会と関係し続けようとするのだ。ちゃんとその時に後ろの廊下に人が通る描写があるので、意図的だと思います。あのバカ大学生は扉を閉めるなりセックスしようとするが。

 っていうことを考えながら見ていたら、ドア空いてるのに剃毛シーンを音読されると笑っちゃうわ。共感性羞恥

 でも、ここのシーンが濱口作品の本質かもしれない、っていうかまあ濱口監督っぽさだな、と思います。テキストを綺麗な声で読んでもらって興奮してるのって監督自身では?それは性的ではなく、この瀬川先生と同様で創造者としての興奮。同時にこれはカウンセリングに近い。解放に近い。

 それゆえ、きっとこの人は大丈夫。ある種閉ざされた家庭という場所から大学に来たのだから。瀬川先生と同じで、扉を開けていたタイプの人間なんだから。

 と思ったら5年後!働いてる!と思ったら、あああああ…と。PCの画面映されていた時に気づけませんでした、まだまだやな。

 甲斐翔真さん、いいクソやろうでしたし、当然ぷらすとがーるずの森郁月さんの好演も見逃せませんでした。

3.もう一度

 コンピュータウィルスのセロンの話がいきなり字幕で怒涛。

 舞台は仙台の話。同窓会の為に来た仙台での、偶然の再会。エスカレーターでのあっ!!の瞬間はとっても劇的。

 2人はITドカタと製薬会社の研究開発の妻。どうやらウィルスで配信プラットフォームが死んで、IT系の人もボロッボロらしい。そういう感じで設定使ってくるのね、みたいな感じでああ、きっと成長した同級生に久しぶりに会うと、知らない一面が結構見れて別人みたいに見えることもあるよね(成長した同級生に会わない人の文章)と家まで連れ込んで互いの素性を知らないどころか、全くの他人。そんなのことって。そんな偶然ある!?と思いつつ、多分どこかで知っているはずの人だろうと思って話し始めちゃう、なんてのも誰もが身に覚えがありますよね。

 そこからは、互いに何も知らない者同士だからの会話劇、というか演劇療法。互いに勘違いした相手だと相手を思って振る舞って、言ったことないことをいってみる。すんごい奇妙なシスターフッドだけど、凄く素敵な関係に見えました。

4.全体を通して。

 奇妙な偶然で結ばれた3つの物語を濱口監督は編んで来た訳ですが、それだけでなく、共通しているのは、まあそりゃ濱口作品なんだから当たり前っちゃ当たり前なんですが、ずーっと喋っている。対話・会話なんですよね、やっぱり。それが呪いでもあり、魔法でもあり、悲劇でもあり、喜劇でもある。そして勿論、痛みでもあり、癒しでもある。

 そうであることを分かった上で、閉じた空間にいることなく他者と関わって「社会」が生まれていくんだぞ、っていうことを改めて感じました。いや、閉じた空間にいるとバレるよ?の方が近いかもしれん。

 で、最終的にはですよ、全部答えを見せてるんですよね、丁寧すぎるぐらいに。濱口竜介作品ってもうちょっとこっちにぶん投げてるイメージ。で、今回は短編だから語れることも少ない。と思ってたら、想像以上に教えてくれて、それがシンプルに「面白さ」の担保になってる。ある意味で濱口竜介作品として最もエンターテイメントに近いのかもしれません。そういう意味でもこっちがベルリンでドライブマイカーがカンヌなのは納得だし、監督も自覚的なんだろうな、と思います。