今回の作品は、ジョッシュ・トランク監督作「カポネ」。ファンタスティック・フォーで失敗してから数年ぶりの復活作らしいんですが、ファンタスティック・フォーをカケラも見ていない私に死角は無かった。
あ、今回のタイトルの元ネタです↓
WATCHA3.5点
Filmarks3.6点
(以下ネタバレ有)
1.こんなカポネ見たことない
本作が描くのは、アル・カポネ。禁酒法時代の歴史上もっとも著名なアウトローではないでしょうか。『スカーフェイス』のアル・パチーノ、『アンタッチャブル』のロバート・デ・ニーロが印象的でございます。だが、そこで最高の悪役でかっこよくすらある、魅力的だったアル・カポネの姿は今回のスクリーンにはない。
開幕、いきなりカポネは字幕で捕まって、そして出所。既に梅毒にかかっているカポネは最初っからかっこよくないんです。2人で座ってしゃべっていたのにいきなりのションベン漏らしですよ。うっわ。こっからカポネは2度の脱糞や脳卒中などもういいところが一個もない。今起きているのが、認知症に伴う幻覚なのか、ちゃんと起きてる現実なのか。もう虚実入り乱れる。明らかに幻覚だろうな、というシーンもありながら、実はこれも幻覚でこの映画が始まってから全部の出来事が幻覚だったのかもしれない、とすら思ってしまうレベルだ。熱演のトム・ハーディはマッドマックスやヴェノムのかっこいい雰囲気をかなぐり捨てた変な声で明らかに衰えていくかつてのスターを演じきったといっていいだろう。
だが、あえて言えばこの作品は決してシリアスではなく、コメディだと断言したい。あれほどの栄光に浴した人物が失禁したりするのが、見ていてつらいのに滑稽に見えてしまう。こんなにダークなコメディはなかなかお目にかかれないですね。
2.過去に囚われた男たち
本作は、過ぎ行くものに目を奪われ続けている男たちの愚かさが非常に印象的。
勿論、カポネはかつて殺した人物の幻影に追われて我を忘れていく。脳卒中で倒れる寸前のシーンでは、拷問を行っていた場所や、カポネが大好きだったというジャズコンサートでの様子など、明らかに夢うつつな感じだ。現在を生きることが出来なくなった状態では、過去に生きるしかない。だから、家の石像にも固執してしまう。
だが、本作で過去に生きているのはカポネだけではない。彼の病気が詐病であると疑ってかかり、出所してからずーっと盗聴・監視を続けるFBI。挙句の果てには、この病状のカポネに尋問までする始末。FBIの偉い人が言っていたように、本当はカポネなんかもうどうでもいいはずなのに。
そしてかつての仲間たちや家族たちもかつてあったギャングスタとしてのカポネの姿を追い求める視線が続き、更には1000万ドルと言われる隠し財産を求める。誰も現在のカポネを見てはくれないのだ。
最後に、この視線は同時に我々にも当てはまる。正当なヒーローとは言えないアル・カポネの活躍を未だに求めて劇場に通ったり、画面を見ている我々だって、カポネの一面しか見ていない。金ピカのマシンガンを乱射しまくるトム・ハーディに待ってましたの喝采を送っていたなら、それは監督の掌の上で踊らされている。