抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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実録イラン警察「ジャスト6.5 闘いの証」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回はカメ止め以来のK'sシネマでの鑑賞作であり、第32回東京国際映画祭のグランプリ&最優秀主演男優賞となる注目作です。イラン映画なんて初めて見た…。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有)

 

1.激撮‼イラン警察24時

 本作の大筋は、サマド刑事が謎の麻薬王ナセル・ハクザドを追い詰めていく物語。といっても中盤で捕まえてしまうのですが。

 まず冒頭のチェイスシーンが非常に楽しい。何らかの建物に突入するサマド達。扉を蹴破り、どんどん中に入っていく。外を警戒していたら影を発見。屋上から飛び出そうとしていた犯人を見つけて、そこから逃走劇。ここの逃走劇が楽しいったらない。イラン人のマジ走りが見れます。逃走犯は麻薬を投げすて、それを拾った刑事がまた別の問題になるのは後半ですが、壁を乗り越えた!と思った彼はそのままブルドーザーで埋められる土の中に…。ここがずーっと無言のマジ走りで続くんですが、ここでもう最高でしたね。

 そんで壮観なのが、大量のホームレス。麻薬王ナセルを捕まえる為に、芋づる式の捜査を画策。末端の売人をあぶりだす為に、薬物依存になっているホームレスをかたっぱしから連行するという展開になるのですが、一斉にゾロゾロと土管から出てくるホームレスの映像は、それもそれでまた凄い。そんな皆さんが留置場で全員スタンディング、キャパが消防法違反だろのレベルのライブ級にぎゅうぎゅう詰めにされる辺りはイランびっくりでございます。

2.善悪の境が消えて感じる社会問題

 面白いのは、中盤でナセルが逮捕できてから。主人公はサマドのはずなのに、急に視点がナセルが増えてきて、なんならサマドはフェードアウトしている節さえあるのです。ナセルがサマドに取引を持ち掛けたり、サマドが自分の弟に連絡を取るために満杯の留置場のトイレで携帯で通話してたり、裁判官に家族は巻き込むなと言っていたり。

 そこでサマドがこれぞ麻薬王な振る舞いをしてくれれば、我々はスカッと勧善懲悪を見たぞ!と劇場を後にできるのですが、残念ながらそうはいきません。サマドは麻薬で稼いだ資金で両親に都心の家を買い、姪や甥はカナダに留学させている。若い人には環境が必要だ、と訴え、子どもの誘拐や殺人の疑いをかけられれば涙ぐんで否定する。どんなに薬物で稼いだことは認めても、どこかそこには矜持がある。彼が特別だったのではなく、イランのこれまでと現在が彼のような存在を作ってしまったんだと思わせてしまう。悪のはずなのに善に見えてしまう。なんだったら、逆にサマドは同僚をぶちこもうとしたり、ナセルの取引に乗ったように見える瞬間もあって善と悪の境界は曖昧に。そこに横たわる社会問題を感じさせます。イランの問題なんて知らないですからねぇ。イランに留学した女性の知り合いがイラン人はみんな言い寄ってきて大変だ、ぐらいの情報しか知りませんもの。

 閑話休題、共通して描かれているように感じるのは家族の意識。ナセルは家族を大事にしており、そしてその家族もまたナセルとの面会で涙を見せる。対照的に、自分が刑務所に行かないために息子に麻薬所持の罪をなすりつける親も描かれ、子どもや若者を大切にしているか否か、が一つの境界線に見える。サマドだって離婚からの復縁なんて話が出てくるし。イランの伝統的な家族観とかもさっぱり分からないものの、その辺は日本にも通底する何かがあるのかもしれません。