抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

気が狂いそう、な世界を生きる「君が世界のはじまり」感想

 

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はオンライン試写!ふくだももこ監督×松本穂香タッグが再びの「君が世界のはじまり」になります。このタッグの前作「おいしい家族」は見たいな、のまま未見。しかし、TBSラジオ「新米記者・松本穂香です。」を毎週愛聴している身としては、外してはいけない!と思い鑑賞です。ラジオ毎週聞いてるくせに、松本穂香さんの実写映画は初めて。「君と、波にのれたら」はあるんですけどね。

www.tbsradio.jp

WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有り。見てから読むこと推奨)

 

1.誰が殺した?群像劇

 物語は、40代の父親と思われる男を刺した高校生のシーンから始まります。誰が殺したクック・ロビン。犯人の顔は見えないまま、メイン6人の日常パート的な本編が始まっていく。

 後述しますが、それぞれがそれぞれに問題を抱えているため、父親の描写のない琴子、家族描写が殆どない岡田はともかく、他の4人は誰が犯人でもおかしくないぞ、と注意を引きながら物語が進んでいくことになります。群像劇なので、この6人の関係性やキャラを理解させるのに時間がかかり、物語が向かう先がどこになっているのか、推進軸の無いまま1時間ほど進んでしまうのが難しいところですが、それでもそこで興味を持続させられるのは、冒頭にこのちょっとした謎を置いておいたからでしょう。

 実際には、殺害していたのは彼らではなく、同じ学校の藤野という生徒で、それが意外にあっさりと明かされて以降は、その話は割とスルー。まあ、この時点で登場キャラの誰かを好きになっているので、それもそこまで気になりません。

 この後、明らかにロメロのゾンビオマージュ感のあるモールでの一夜を迎えますが、ここで初めて点が線になる。ただ、学校パートでは岡田が影薄め、モールパートでは琴子はそもそも不在の為、6人の群像劇という割にはそこが絡み切れてないのかな?なんて思って見ていました。あの事実が分かるまでは…。

2.円=縁。「普通」じゃない自分と間違い

 さて、各々のキャラについて考えていきますが、皆さん素晴らしいキャストだったと申し上げておきましょう。

 まずは岡田。サッカー部のキャプテンで、主人公の縁に古文で送られたラブレターの現代語訳を頼むあたりから物語に絡んでくる人物。彼はただの良い人。6人の中で少し浮いていて、分かっていない。

 男子チームを片付けるなら、縁と琴子の間で重要に動く業平。彼は母が自分を出産後にいなくなっており、父はアル中。縁に誘われて夕飯を縁の家で食う時は、家庭というものの体験を非常に楽しそうにしていました。いい顔だったなぁ…。

 んで、東京から転校してきた伊尾。彼は他作品からの引用を結構引き受けている役割でした。父の再婚で東京から関西に越してきたが、義母と体の関係を持っており、それでいて、純とも関係を持ってしまう。義母が働くショッピングモールで過ごし、まさにロメロのゾンビ的に生きている存在。また、彼は『灼眼のシャナ』を読んでいました。アニメ好きな割にシャナを知らなくて申し訳ないのですが、死んでいる男が異世界に行く話のようなので、まあ東京から関西に来て死んだように生きている伊尾を象徴した本を読まされている訳ですね。シャナの話は詳しい人に聞いてください。

 純は、父が家事をしだしたからか、明確な描写はないものの、居場所を喪失した母が出ていってしまった、そういう家庭になっています。登場時の、ブルーハーツがかかり始める場面は疾走感があってとっても良かったです。んで、伊尾と関係を持って行く。

 琴子は彼氏をとっかえひっかえする中で、業平くんに惚れてコノヤローって感じ。成績も性格も対照的な縁を本名ではなく「えん」と呼ぶ唯一の人物であり、これはとっても大事な事。お母さん役の江口のりこさんも相変わらず出れば100点のパフォーマンスです。演じられた中田青渚さん、存じ上げませんでしたが、今後沢山の青春映画に出るんじゃないでしょうか?最大の発見でした。

 さあ、主演、松本穂香演じる縁。成績も良いし、家庭も円満に見える。でも琴子と一緒になって、咳込みながらも煙草を吸う。ああ書いていてまた愛しくなってくる。世界を広げてくれたと感謝する業平の接近を断るわけですが、彼女は琴子のことが好きだったと。そういわれて序盤からの違和感や「なんで一緒にいるんだろうね?」なんて台詞が一気に刺さって、え、琴子にデートって何するの?とか聞いていたのとか超つらくね、琴子のお母さんそれも織り込み済みってマジかよ、と一気に彼女の言動全てが深く感じる。目が良いですよね。大きく開いた目は、この世を不思議がっているようで、見下しているようで、吸い込まれる。あれ、なんかただのファンじゃないですか。

 いや、ちょっとみたばかりだから羅列っぽくなってしまいましたけど、この映画で大事なのは「普通」と「円」だと思います。縁がきっかけになって、業平は世界が広がっていきますが、それだけじゃなく、琴子が自転車で校庭を走る轍も円、作中何度も登場するご飯はタコ焼きにお好み焼きと、関西風のものばかりですが、それも円形。これって、ある種欠けていないことを象徴するものだな、と。そこで出てくるのが殺人を犯した岡野の存在。暗闇のモールで琴子以外の5人は自分と岡野の違いを考え、岡野も普通だったのでは?なんて話になります。でも、彼らは岡田以外自分のことを普通と思っておらず、だから岡田だけ大声で反論する。他のメンバーにとって、岡田はありえたかもしれない自分であって、それが普通。うーん、言語化できていない気がするんですけど、伝わりますかね、この感じ。

 んで、この映画が好きなのは、その普通=円形の状態を善とするのではなく、欠けている状態、どこか間違っている状態でもいいじゃんと背中を押してくれること。気が狂いそうな青春、でもモールでの一夜を明かせば見事に明るい朝がやってきた。純は丸いお好み焼きにかぶりついて父と和解したら母が帰ってきた。欠けてていいんです。同性愛を普通じゃない、というカテゴリに入れておくのも嫌ですが、まあそれも肯定される。ラストのタイトルどーんで下に出るMy name is yours。『君の名前で僕を呼んで』を見ていないのが悔やまれますが、ゆかりではなくえんと琴子に呼ばれたその瞬間から、縁の世界は始まっているんですな。

 

人にやさしく

人にやさしく

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 どうでもいいですけど、この曲は僕にとってはホークスの北日本チャンテなんですよね


福岡ソフトバンクホークス 北日本チャンステーマ