抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

忘れられた殺人を掘り起こす「暗数殺人」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回でようやくコロナ前に公開されていた作品の回収完了。間に合ってよかった。韓国映画、「暗数殺人」です。

Dark Figure of Crime 암수살인 (Original Motion Picture Soundtrack)

WATCHA3.0点

Filmarks3.2点

(以下ネタバレ有り)

1.とにかく頑張るおじさん刑事

 本作の主人公は麻薬捜査班から刑事課に移動となった刑事。そもそも何でか良く分からないが、死体運搬をしたという男の情報提供を受けようとしていたらソイツが逮捕!実は殺人犯でした!どころか、あと7人殺したと自供し始めるから驚き。ところが、その7人はいずれも暗数殺人、いわゆる未解決及びそもそも失踪で処理されているだけの事件のことなので証拠が何もない!自供を素材に証拠を集めて余罪の追及をせねば!という作品であります。なんだろう、白石和彌監督の『凶悪』と少し似てますかね。

 基本的にいわゆるサイコパス的な犯人と、ただひたすら地道に追う刑事との対決、という感じなんですが、最終的に周りがみんな出世していく中で遅れまいと刑事が頑張っているのではなく、純粋な正義感で事件を追っていたから、かまってちゃんな犯人はがっかりしました、勝負すらしていなかったのだ、というオチでした。うん、このオチは痛快とまではいかないが、納得できるんですよね。

2.刑事がショボいと悪役もショボい

 どうしても渋めの評価になってしまうのは、刑事側に盛り上がりが皆無だから。っていうか、正確に言うと盛り上がった後にすぐ盛り下げてしまうから。そもそも、最初に警察が証拠を捏造しなければよかっただけの話でもあるので、熱心に調べる刑事を冷めた目でみる警察終わってんな、というのは置いておいても、そんな顛末があるのに確固たる物的証拠がないまま突き進もうとする主人公チームに呆れちゃうのです。録画されてない状況でペラペラ喋った自供(案の定、金と引き換えに書けと言われたなどと証言される)と状況証拠だけで裁判に持って行こうというだけの話で、え、それでいいの?と。

 刺殺されて火をつけられた男性の事件も、限られた自供から時期を特定、未解決事件から該当する案件を見つけ出し、さらに今までよりは十分に強い証拠を見つける。そこで繰り出す手が、犯人立ち合いの実況見分。当然、そこでなんらかの振る舞いがあって犯人が落とし穴に落ちると思ったんですけど、何もなし。結局無罪になってしまって、いったい何の勝算があってそこまで強引に進めたのだろうか…?と思ってしまう。そのあたりで分かる、何故殺したか?ではなく何故自白したのか?のからくりは確かになるほど、ではあるんだけど、それを丁々発止のやり方から気付いていたのだ!とするのではなく、同じような状況になった先輩の元刑事からそのまま言われるだけ、という。

 結局、刑事が特段優れた人物なわけでなく、情熱と根気だけな上で、そのおかげで犯人を追い詰めた、というわけでもない、となってしまうのが残念なところ。刑事がこういうタイプで描かれてしまうと、知能犯やサイコパスに見える犯人も一気に小物に見えてどうでもいい話に感じられてしまう。おまけに、この犯人、見事に接触を断ったら自分から連絡して新しい情報くれたんですよ。ただの寂しがり屋やんけ!ますます小物じゃないか!

 小物のかまってちゃんの挙げた殺人を必死に状況証拠だけ集めて、本人にぶつけて、ご満悦、ってそれでいいのかと。一応、話の上では犯人との勝負じゃなくて、名もなき死体の無念を晴らすだけだからいいのかもしれませんが、あまりにも映画的には何も起きなすぎるというか。この作品って、実際の事件をベースにしているようなのですが、ただ韓国映画には『殺人の追憶』という未解決事件なのに映画的に面白い傑作が生まれてしまっているのでね、そんなに言い訳できないというか、比較対象になっちゃいますよね。