抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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ドンパチしない侵略SF「囚われた国家」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は非常事態宣言ガン無視で4月に公開されていた数少ない作品の一つ。猿の惑星のリブートを成功させたルパート・ワイアット監督のSFになります。万人にはオススメしづらいですが、SF好きなら是非。

Captive State [DVD]


WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレあり)

1.実にシブい、しかし確実にSF

 本作の舞台はエイリアンに侵略された国家。そこでのわずかな反逆を描きます。

 ただ、事前に必ず言っておかなくてはならないのは、例えば「インデペンデンスデイ」とかの侵略に対して果敢に戦う人類、みたいな映画ではございません。派手な描写は皆無といって良いでしょう。

 冒頭、なんだか戒厳令の敷かれているシカゴから脱出しようとする自動車。検問をすり抜けて出会ったのは、一瞬で運転席と助手席の夫妻を消し炭にしてしまうエイリアン。あれ、今思えばここが一番アクションしてたかな。その後、ニュース原稿なんやらを背景に実にあっさりとエイリアンによる侵略を描き切ります。コイツら、さらっと侵略してライフラインを人質にとってあっさりと人類との共存(という名の支配)を達成するかなり知能の高い連中の模様。抵抗する人たちもいましたが、爆撃テロを敢行するも失敗。テロ組織も壊滅に追い込まれました、ってんで時制が9年後に進んで、やっと主人公たちのターン。

 こっから先は、エイリアンを殺すための爆弾テロを各々がごく少数のパートに分かれて計画の全容を知ることなく実行していく様子が、それを追いかけるジョン・グッドマン演じる警官と交互に描かれていくことになります。

 エイリアンの監視下では、発信機の埋め込みなどもあり、派手に動き回ることはできない。その為、それぞれの行動はむしろ思いっきりアナログなものになります。カメラに映らないところで話す、伝書鳩、新聞広告を利用した信号などなど…。そう、これだけ見るとほぼスパイサスペンス。実際のところ、私が想起したのは史実を描いた『1987、ある闘いの真実』。それぞれの人物がそれぞれの持ち場をちゃんと隠れてやるだけで大きな計画が成立するサスペンスでもあります。全体のゴールが見えづらいので多少推進力には乏しいのですが、計画が分かってからは一気に引き込まれていきます。

 んじゃ、どこがSFなんだよ、と言われるとまずは爆破に使うのが透明な爆弾。なんか宇宙船の破片から作ったらしいです。トイレに保管されているのは笑ったけど。まあ後は何より明確に相手が宇宙人なんでね。彼らは正直言って良いデザインとは思いませんし、明るいところで姿を見せてくれない。また、侵略の前後の差がそこまではっきり描かれないのでふわっとしてしまっているのが残念。

 また、計画は成功しても彼らは殺されたり、地球外追放。でもそれもシナリオのうち。実は隠れ主人公だった警官、ジョン・グッドマンがエイリアンと初めて接触するラストは、透明な上着を羽織っている…。という。これはこれでカッコいいんですけど、この為にすぎて、少し勿体なさを感じたのも事実。

2.SFが映す現実

 SFの基本は何か現実を映す鏡、メタファーだということ。

 アメリカは彼らのおかけで再生した!なんて台詞はどこかの大統領を思い出すし、wrong sideにつくな、なんて台詞はどこの国でも言える。本作は堂々とした侵略・支配を描き、逆らうな、と人間側から抵抗勢力にメッセージを送っているため、エイリアンのことを独裁政権や圧政に簡単に置き換えることが出来るのです。

 あんなにあっさりとアメリカが制圧されることよりも、その後に権力側が完全に擦り寄って、国民もまたスタジアムを満員にするほどの寄りかかり方になる。こんなに容易く乗っ取られるのか、と愕然とすると同時に、どこか納得してしまう。なんでもかんでもヒトラーなのはあれですが、ファシズムの台頭なんかは想起できますね。

 と同時に、諦めない限りは戦いは終わらない、という人類の強さもまたしっかりと届きます。抵抗し続けることの重要性、ああ、期せずしてアメリカの現状にしっかりとリンクするじゃありませんか。

 閉鎖地域でのエイリアンとの接触に向かう本部長及びグッドマンのシーンも非常に示唆的です。宇宙からの侵略者と接触するのにエレベーターは下に向い、カウントダウンの下、イグニッションの掛け声で出発。これって完全にスペースシャトルとか人工衛星の発射じゃないですか。内からぶっ壊されたものを取り返すなら下に向かうんですよ。

 一つ、課題を挙げるなら東京やらジャカルタやら北京やらが侵略時の模様で取り上げられていたので、シカゴ以外の話も聞きたかったな、と。民衆の力を信じる話でありながら徹頭徹尾アメリカだけの話なんですよね、コレ。まあそれこそアメリカっぽさではありますが…。

 とここまで記して気づきました。結局Blarck Lives Matterがここまで今上がらなくても、単純に内包していた不満が暴発しただけですよね。外vs内になったら内のナショナリズムが強化されるのがエイリアンものだし、それが人種間になっただけ。

 という訳で、パンデミックの話題が中心とはいえ、この映画を見て真っ先に思い出したぷらすとのSFおじさんずの回を貼っておきます。

 50代のSFファンが持っているべき6冊、家には1冊もありません!ごめんなさい!ウェルズから読み直します!