抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

英雄も凶悪犯も数字が取れる「リチャード・ジュエル」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は2年連続で試写会で拝見させていただいたイーストウッド作品。御大ももう90歳ということで、毎年のように新作見れること自体がありがたいっすね。

 今回、見てから書くまでちょっと時間が空いちゃったらなんか中身スカスカな気もするので、これからはまた見た日に書く、を徹底できれば、と思います。 

Richard Jewell

WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ)

 1.人を見かけで判断するな…とは言うけれど。

 さて、本作はアトランタ五輪大会中に公園で発生した爆発事件。その爆弾の第1発見者として英雄になった警備員、リチャード・ジュエルが一転容疑者として扱われ、そこから冤罪を防ぐために弁護士と共に戦う、というお話。FBIのプロフィリングだけで、大した証拠もなく容疑者にされてしまう、人を見かけで判断しちゃダメだよ、となる訳ですよ。

 ただですね、この話一つの要旨して見かけで判断するな論があるんですけど、正直殆どの登場人物が見かけ通りというか。

 まずは主人公のリチャード。爆弾事件を止めた英雄ではあるものの、その場面に至るまでに正義感が多少行き過ぎた人物であること自体は見せられており、劇中もその意識が抜けきらず、正直イライラしてしまうような言動も多いです。ここで称えられるべきは、演じたポール・ウォルター・ハウザー。「アイ、トーニャ」にしろ、「ブラック・クランズマン」にしろ、バカっぽい白人役が最高にハマっている訳ですが、今回も例にもれず彼の好演によって本来なら、弁護士の言うことも聞かず、自分で自分の首を絞める愚行をしているのにそれがギャグに見えて笑えるんですよね。イーストウッドの前作「運び屋」同様に軽い笑いのトーンを維持できるているのは彼のおかげでしょう。個人的には、英雄になる彼が"SECURITY"と書かれた白シャツを着ているときの乳首の透け具合がいい感じにキャラを表していると思って良かったです。

 んで、弁護士ワトソンはサム・ロックウェル。明らかにどんくさそうなリチャードとゲームセンターで仲良くしてあげる様子からも好人物であることも分かるし、大体サム・ロックウェルがやってる時点でもう成立しまくってるわけですよ。裏切りもなくいい人で終わります。

 対立先となるFBIのベネット捜査官は、記念公園の警備を仰せつかった時に露骨に不満そうで、そのイメージのまま情報漏洩するなど悪役として進みますし、リチャードを窮地に追い込む記者キャシーも厭味ったらしいキャラを最初に見せておいてそのまま突っ走る。キャシーの演出過多、という批判は確かに事実に反するなら良くないかも、と思います。FBIが漏らす訳ない、の間をとった形だったんですかね。彼女自身のキャラはワトソンの車に勝手に乗り込んで待ち伏せ、というシチュエーションで説明できているので余計なとこだったかもしれません。

 んでんで、割とエモーショナルな部分を担当するジュエルのお母さんも含めて、爆発事件が起こるまでの前情報でキャラを掴ませる、という風に言えば見事な作劇なんですけど、雰囲気で疑われるリチャードを見ていると、その後の裏切りがどのキャラにも起きない、というか起きても行動に起こさないというのは、うーん少しどうだろうかな、というのが個人的印象です。

2.イーストウッド文脈から見る「リチャード・ジュエル」

 今回の作品はイーストウッドの監督史的に言えば、「アメリカン・スナイパー」や「ハドソン川の奇跡」に連なる保守の立場から、システムや国家に対して疑問を提示するような作り。今回批判されているのは、プロファイリングだけで雑に突っ走り、捜査方法も完全アウトなFBIと、他紙との抜いた抜かれた合戦のメディア業界でしょう。

 特にメディアに関しては何度もリチャードやその母が、自宅の前に集結したメディアを窓から覗くシーンがいっぱい挿入されているので言いたいことがあるのでしょう。勿論、イーストウッドが言いたくなるようなフェイクニュースの氾濫やメディアの責任が軽くなっている感じは分かります。ただ、分かるから、捜査官は最後までリチャードをクロだと言い続け、キャシーを始めとして謝罪記事や謝罪放送が為された形跡もなく、リチャードの名誉回復が為されなかったのかな?と思ってしまいます。

 タランティーノを知った後の私にとっては、それぐらい脚色で変えちゃってもいいんじゃね?そっちの方がスカッとするよ?とちょっとエンタメ主義になっているかもしれません。

 それとFBIへの文句は「J・エドガー」でも一応言ってたし、なんというか同じ文脈で割と一貫して撮っているので少し「また?」感があったことも添えておきます。面白いんですけどね。

 まあ彼が言いたいことは割としっかりリチャードに大一番で言わせてくれているので、メッセージとしては分かりやすく明快ですし、そこはそれまでのリチャードから脱皮する瞬間でもあって、サイコー!なのは間違いないんですけどね。

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3.たまたま?タイムリーな作品

 まあイーストウッドだから意識してるかしてないか分からないんですが、日本にとってはなかなか他人事ではありません。なんせオリンピック中のテロな訳ですからね。つい先日、こっそりカルロス・ゴーン被告が出国できちゃったように、テロリストもこっそり入国してテロできるのではないか?そしてその罪を雑な思い込みや扇動によって、特定の人種や職種の人物が炎上するようなことはないのか?メディアリンチは起きないのか?

 海外のどの作品を見ていても思うことではありますが、日本だったらどうだろう、の当事者意識はしっかり持ち続けていなくては、と改めて感じましたね。少なくとも、「さよならテレビ」を見たばかりの私には、今の日本だと危ないだろうな、という感触があります。

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