抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

冲方成分強すぎて太宰が入水しそう「HUMAN LOST 人間失格」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は太宰治人間失格」原案のポリゴンピクチュアのアニメ。公開3週目にして1回回しだから興行的には厳しいんでしょうね。たまたま時間があったので図書館で太宰の人間失格も読んで臨みましたよ。よく考えたら太宰とか漱石は読んでねぇんだよなぁ…

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

  • 作者:太宰 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 文庫
 

 

HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ (新潮文庫nex)

WATCHA2.5点

Filmarks2.7点

(ネタバレ有り)

 1.冲方色…というか既視感のごった煮

 舞台は昭和111年。グランプなる完全無欠の医療体制の達成によって見事に健康長寿大国となった日本。120歳になると人間合格になる、みたいな感じ。

 早速で悪いですけど、この人間失格を個人の内省的な問題ではなく、国家全体が判定するシステムとして拡大解釈するのは割と好きな設定だったんですけど、この完全医療って伊藤計劃の「ハーモニー」な訳ですよ。あれも体にナノマシンがあって無病幸福社会になる。そこで起こるはずのない大量自殺が起こって、死があることによる生、そして意識と肉体、という対比の提起がなされる。最後まで見終わっても、このHUMAN LOST においては、そこまでの問いかけは達成されていないっていうか、こういう哲学的な投げかけをする気はなさそうでした。

tea-rwb.hatenablog.com

 そんで国家が判定していることもあって、シビュラシステムの言いなりなPSYCO-PASSに感じますよね。ついでに言えば、アプリカントと呼ばれる3人は健康を監視する機関シェルのチェックから逃れられる、というのはPSYCO-PASSの槙島と鹿矛囲という1,2のボスと同じような設定ですよね。

 そしてキャスト。いや、演技は素晴らしいんですけど、ポリゴンピクチュアで主役で振り回されるのが宮野真守でヒロインで途中で死ぬのが花澤香菜で、敵役でなんか能書き垂れてるのが櫻井孝宏ってアニゴジじゃないですか。なんだったら、何故か巨大&合体化するロスト体と大庭葉蔵の対決とか、私ですら擁護しがたかった動かなすぎるキングギドラvsゴジラの仇をとっているようにしか見えないし。あ、槙島も能書き垂れるタイプの敵で櫻井ボイスでしたね…。

tea-rwb.hatenablog.com

 

 このようにですね、どうしたって色んな既視感がありすぎちゃって、そしてそれより優れている、と思えるところが一個もないのでどうしたってそっちより評価が低め低めへと進んでいっちゃいます。特に伊藤計劃信者なので、「ハーモニー」に近い舞台設定でこうなるのは、うん、ちょっと…。と思わざるを得ません。勿論、冲方さんもSF畑の人なのでその影響下から逃れられないのは自覚されているとは思うのですが。

2.超高齢化社会にむけて

 まあこれまでの作品と違うことと言えば、健康であることが最も重要視され、国家によって大還暦120歳を迎えないと合格扱いできないこと。そして、その合格した連中が自分たちが神だ、と言わんばかりの態度でくることでどことなく日本の未来を暗示しているようにも感じます。

 そしてそんな老人たちの延命のためだけに、貴重(って言ってた)アプリカントの1体である柊美子の臓器は差し出されていく。とっても悲しいと同時に、肉体的にではないにせよ、社会保障医療保険、年金などでどんどんそんな感じになっていく可能性は否定できない。

 うん、ここまで書いて思ったのですが、やっぱり「人間失格」でやる必要はないのでは…?こういう題材でSFをちゃんとやった方がいいと思うな…。

 最後まで見て、「恥の多い生涯を送ってきました」には繋がらない気がします。

3.難解なSFとは

 ここであくまで私見ですよ、私見ですけど、この作品は難解なSFではないと思います。難解ではなく不親切なSF。

 SFってのは概して架空の機関や概念、テクニカルタームが頻出します。こういうものの多用が現実の延長っぽさやリアル感を形成することもあります。「オデッセイ」なんかはそんな印象が強いです。

 でも、本作は冒頭から説明もなしにアプリカントやらロスト状態やらシェルやら専門用語をぶち込みまくって説明はしていない。で、その説明を後からクドクドしている。後から説明パートがあるなら冒頭とかどうにか出来るし。

 ちゃんといい作品だと、最初からわかんない単語で殴っていても、分からなくていい奴と分かっといた方がいい奴の選別ができるようになっていたりで、単語の意味は枝葉で全体の大きなテーマを捉えられるのか、だと思うんですよ。

 そういう意味でこの作品は枝葉ばっかり見せるばかりだし、あと美子が臓器提供することで延命する仕組みもよくわからない。再生医療あるんでしょ?合格者がいなくなった途端おしまい、という文明曲線の理論も良くわからねぇ。文明は明らかに120歳以上の祭壇にいる連中は作っていないでしょ?

 という具合に本質が見える前にぼやけるし、説明してほしいことは説明されないし、うん、不親切です。みんなから不評なアニゴジは擁護したけど、これは擁護できませんでした!