抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

今度は台湾から傑作アニメが「幸福路のチー」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は2018年のTAAF(東京アニメーションアワード)のコンペディション部門のグランプリにして、色々なところで好評の嵐だった台湾のアニメーション映画「幸福路のチー」の感想になります。

 公開前に試写会で当選して鑑賞できましたが、「ザ・プレイス」「エセルとアーネスト」など、日比谷図書館文化館の地下ホールでの試写会だと素晴らしい作品に出会う確率が高くてなんか嬉しいですね。

On Happiness Road (Region 3 DVD / Non USA Region) (English Subtitled) 幸福路上

WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有り)

 1.台湾発今敏行き?

 やっぱりアニメーション映画なのでまず目につくのはそのアニメのタッチ。海外アニメーションだと、ディズニー&ピクサーやイルミネーションのアメリカ勢、ライカなどのパペットアニメーションなどがぱっと思いつく中、今年は「ロング・ウェイ・ノース」で改めてアニメーションの美しさに気づかされる、なんてこともありました。

 そんな観点で今回の「幸福路のチー」を見ると、まるで「ちびまる子ちゃん」を思い出させるような子ども向けにも見えかねない幼少期のチーが印象的。そこから地続きで描かれる大人になったチーや親たちもしっかり同じ世界線に立っている。そこがしっかりしているので、幼少時のチーが想像した時に出てくるタッチの全く異なる絵がとっても刺激的で、アニメーションにしかできない飛躍を見せてくれています。多少マッドな感じすら覚えるそのパートに関しては、湯浅政明監督や今敏監督の影響を感じずにはいられませんでした。

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2.夢を叶えることが幸せなのか

 冒頭、「となりのトトロ」のように幸福路に親子で引っ越してきたチー。彼女が成長後、渡米して色んな事に悩んでいる現在、祖母の死をきっかけに台湾に帰郷。そこから回想と現在の自分とが交互に表現されて幼少期の自分と大人になった自分とを比べて…みたいな話で、結論で言ってしまえば「青い鳥」なんですよね。

 幼い頃に一緒に遊んでいた3人はそれぞれ抱えていた夢があったはずなのに、おそらく921地震と思われる地震で命を落としたり、シングルマザーになっていたり。すっかり想定していない自分たちになっている。追い求めた夢が叶っていない今は不幸なのか。

 そこまの道のりでチーが必死に追い求めていたものは何だったのか。高級取りだからと親に敷かれた医学部への道を蹴って文学部を志望し、学生運動にも身を投じる。両親は老いていき、それでも夜勤で働く父に、リサイクルが流行っているとごみを拾ってくる母。そして死んでしまった祖母。時の流れは実に残酷だ。でも、そうやって必死に生きた時に、キーワードとして思い起こされる祖母の言葉。自分が本当に欲しかったのは故郷、帰ってこれる家だったんだ…。ある一定の年月を過ごしてきた人たちには等しくぶっ刺さる、国籍とかそういうのは全く関係ない普遍的なメッセージがそこにはありました。

 そうやって自分に向き合っていく中で対照的に描かれる友人ベティは全部が全部、子どものころから思うようにいっていません。そもそも台湾において排外されやすい他者性を強く持った人物であるせいもあるでしょう。でも、彼女は現在を肯定的に捉えられているし、力強く子育てをしている彼女をチーは羨ましくも思う訳です。自分で決めた新しい道を突き進んで、それでも満たされずアメリカにまで渡って、ここではないどこかで、なにものかになれると信じたチーに対して、幸福路に残って幸せなベティ。結局、幸福路に、我が家に探していたものがあったわけですね。

3.是非事前に台湾史を

 本作は「この世界の片隅に」や「エセルとアーネスト ふたりの物語」と同様に、生活に密着した話を描いたアニメーションではありますが、政治がしっかりと登場してくる話です。チーが身を投じたと思われる三月学運という学生運動や、そもそも台湾、というか中華民国において重要な存在である蒋介石、そして現在の蔡英文総統の前の総統だった馬英九までが登場してきます。そういうところまでちゃんと理解していると、ちゃんと時間の流れもしっかりと把握できると思います。

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