抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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優しさに心を洗われる…「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 話題沸騰のすみっコぐらし。近くでやってるんで折角なんで見てきました。監督がまんきゅうさん、ってシン劇(アイドルマスターシンデレラガールズ劇場)の人っすか、とか思ってたらヨーロッパ企画とか絡んでるみたいで万全の体制だったみたいですね。

 いやでも監督凄い。ただのショートアニメ職人だと思ってました。反省します。

【チラシ付き、映画パンフレット】映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ

WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

(以下ネタバレあり)

 

1. あくまで目線は低いつくり。大前提を忘れずに。

 この作品を語るうえで大前提になるのは対象年齢は当然幼児・児童であること。特に最近はアニメーションは大人向けも増えている中で、自分も行っているポケモンやコナンの映画、プリキュアなんかもそうですけど目線が子どものためだ、ということを忘れないようにしなくてはなりません。そんなことを映画館デビューかもしれない家族のあたふたぶりを目の前にして劇場で思いました。当然、大人一人で来てるのは私だけでしたが、なにか?

 そういった点で考えるとまずはこの作品は非常に優しい作品だった、ということを特筆するべきでしょう。淡い色使いにNHK教育テレビ(今はEテレっていうんだっけか)で見たような絵柄の、絵本からそのまま飛び出てきたようなすみっコたちが楽しく動く(それが絵本の中に取り込まれるのが面白いですが)。登場人物はみな喋らないものの、ナレーションと代弁をイノッチが担当し、その語り口調もとても平易かつ優しいものに。

 話自体も、すみっコたちが絵本の世界に迷い込む、というストーリーですが、人魚姫、赤ずきんアラビアンナイト、マッチ売りの少女、桃太郎と洋の東西を問わない名作童話のオールスターで子どもたちも話の概略を分かったうえで見れるので、従来の童話からの裏切りも分かりやすい。しかも童話自体のあらすじのナレーションは本上まなみさんが優しくも井ノ原さんと比較するとやや無感情に読んでくれるので、本筋を見失いづらいようにしてくれています。多くの童話を行き来することで、場面ごとの集中力を区切れるし、必ずどの童話の世界かはナレーションで教えてくれる親切設計が嬉しい。そして時にはオーバーにアニメ的表現を繰り出すことで、子どもたちのエモーションや笑いもしっかり揺さぶってくれる。

 こういうところに対して、いや説明過多だ、とか、平易すぎる、というのは難癖。サトシがピカチュウをバトルに出すときに「ピカチュウきみに決めた!」と言わなくても出てきたのがピカチュウだって分かるよ、なんて批判は誰もしないでしょう?

2.子ども騙しと子ども向けは違う

 前述のとおり、映画館に初めて来るかもしれない子どもたちに向けての映画作品なのは間違いありません。65分という尺も真っ暗に対応できる限界かもしれません。でも、大切なのは相手が子どもだと思って手を抜く子ども騙しの作品を作ったとて、決して子どもの心には響かない。それをこの映画の制作陣はとっても良く理解しているのだと思います。

 勿論、まずは何といっても扱うテーマ。可愛いキャラクター化されていることで物語で役を与えられてこそいますが、彼らはみな部屋の隅っこが好きな、いわばアウトロー、はぐれ者。仲間やお家という概念が登場することで、彼らの孤独感と孤独が故の連帯感が強調されます。特に孤独なヒヨコに対して自分と共通点を見つけて仲間だと思うペンギンのケースは道徳教育でもよく使用される共通点を探すことで相手と自分が同じ生き物であることを認識させる手法。

 また、桃太郎における鬼や赤ずきんにおける狼といった勧善懲悪の対象となるキャラクターが悪として退治されない物語的裏切りや、悲しい結末を迎える人魚姫やマッチ売りの少女が違う結末を迎えることが、この世に無くなっていい命など存在しないこと、単純な暴力による解決の否定、とそこまで理解できなかったとしても意義のあるテーマをしっかりと正面から取り扱っています。こうした排斥されたものたちの物語でもあることから、ネットで「実質ジョーカー」とかその辺の感想が漏れたんでしょうね。でもすみっコぐらしの世界ならアーサー・フレックはジョーカーにならずにすんだかもしれません。

 そして、個人的にとても好きだったのが桃太郎猫が穴を掘るシーン。ページの切れ目が月になっていたから裏のページに行けた理論は完全に途中で崩壊してしまうんですが、その中でもちゃんと本の世界にいるんだ、ということをしっかり忘れておらず猫が掘る穴から書き出されるのは地中のはずなのに土ではなく白い紙のようなもの。こういう細部にしっかり気を配っていることこそ、子ども相手だからと手を抜いていない証左だと思います。

3.唯一怒っていること

 えー、この作品全体を通して優しいのに、描いているテーマは厳しく、素晴らしい作品だったと思います。ちゃんとヒヨコの正体にも一度裏切りを持たせているし、結末の別れに至る前の伏線を張っておきながら、回収するときにもう一度見せてあげている。

 きっとこの作品を見た子どもたちは、仲間外れや暴力での解決を少しは躊躇ってくれるようになると思うし、そう信じたい。それだけの力のある作品だったと思います。

 だからこそ、そんだけの説得力を持つ作品だからこそ!!奥付とか見返しの部分に更にお絵かきをすることで解決しないでほしかった…。本に落書きする奴は許さない過激派として、書かれてしまったヒヨコの存在は否定しませんが、お家まで作らないで…ただでさえ破かれちゃうかもしれないのに…。うん、この姿勢こそ子どもの認知を信用しきれていないのかもしれません。