抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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ロバート・レッドフォード、華麗に銀幕を去る「さらば愛しきアウトロー」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 まず始めに、京都アニメーションの事件。大変痛ましく、辛い事件でした。ショックが私自身にもとても大きく、京アニ信者ではないつもりでしたが、自分の人生にも結構影響が大きなスタジオだったんだな、と痛感しています。ヴァイオレット・エヴァーガーデンの劇場版もメイドラゴン2期も、ユーフォの3年生編も、いつまでかかっても待ちたい。そう思います。

 そして今回取り上げるのは、自ら幕引きを選んだ映画スターロバート・レッドフォード引退作です。「大統領の陰謀」「明日に向って撃て!MCUぐらいしか彼の勇姿を見ていませんが、事件の詳細が分かる前に見て、劇場を出て事態に愕然としたので少しばかり感想が薄めかもしれません。ご容赦を。

さらば愛しきアウトロー

WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

(以下ネタバレ有り)

 1.最後までカッコいい。コレが生き様だ。

 自らプロデュースにも回って自身の引退興行を行ったロバート・レッドフォード。だからこそ、本作は彼の魅力、カッコよさを1から10までを堪能できる作りです。

 彼が演じるのは銃をチラ見だけで済ませ、被害者からも「紳士」と言われる銀行強盗フォレスト・タッカー。邦題も彼への敬愛を感じる良いタイトルだとは思いますが、原題は「THE OLD MAN &THE GUN」。老人と海、ならぬ老人と銃。序盤は彼の銀行強盗を非常にスマートに。付け髭等で変装しているものの、実に普通に銀行強盗をする。逃走中に、おそらくは警察除けの為にエンジントラブルを起こしたシシー・スペイセク演じるジュエルと出会うわけだが、このジュエルとの恋愛模様、銀行強盗、そしてケイシー・アフレックが演じる刑事ジョンが事件を追う様が3つ平行して描かれる。

 途上の銀行強盗をする場面もカッコいいが、ジュエルとのデートで訪れた宝石店でそのまま一緒に店外に出ていってしまう遊び心。勿論、逃げる気がジュエルにあるなら逃げていただろうが、そんなスリルこそ彼ら老齢には日常にないスリルを与えているだろう。

 中盤以降、フォレストには16回の脱獄歴があり、決して捕まらない男だったわけではないこともわかる。そして当然のように物語終盤で彼は逮捕されてしまう。普通はここで物語が終わる気がするのだが、本作はそうではない。彼が脱獄した過去を彼のフィルモグラフィを振り返るように流し、そして刑期を終えて出所してジュエルに迎えられたのに、それでもまた銀行強盗に向かってしまう。彼にとって退屈に人生を過ごす事より、何より楽しい銀行強盗を続けることが刺激的なのだ。

 そしてこれは、勿論実話ベースとはいえ、ロバート・レッドフォード自体がこれまでの俳優人生を振り返って、その仕事ぶりに誇りを持っていることの証明に他ならない。逆に言えば、これだけの俳優がフォレストと異なり生業を退くことを決めたのだから、本当に満足したのだろう。また、その晴れ舞台の監督に選ばれたのが30代の若手監督デヴィッド・ロウリーというのも興味深い。この映画は引退興行であると同時に、レッドフォードなりの若い世代へのエールにもなっているのだ。

2.「運び屋」との対比

 老いたスターの引退作である、ということ、そして実在した老練のアウトローを演じた、という点でも思い出されるのはクリントンイーストウッド主演・監督作である「運び屋」だ。(勿論、イーストウッドは引退作ではないが、主演は事実上最後ではないだろうか。)

 例えば、最強にフォレストがカッコいいのは、店のトイレでジョンと出会うシーン。ジョンを刑事と知ったうえで「犯人はまだ捕まらないのか?」なんて惚けて見せる。相対するジョンも去り際にフォレストだと見破り名を呼ぶ。ともすれば、継承にも見えるこのシーン、やはり「運び屋」のダイナーでのイーストウッドブラッドリー・クーパーの会話を思い浮かべる。それぞれしっかり次代へのバトンタッチをしているのである。

 一方で、対称的なのがやはりその結末。イーストウッドは自身の半生を重ね、家族への贖罪を描きながらラストは刑務所で終わる。そこにあるのは後悔であり、それでも映画を作るしかないという開き直りでもある。その点、レッドフォードは前述のように人生の謳歌、誇りを感じさせる作品になるし、生き様を他人に撮らせる、という懐の大きさまでも見せている。イーストウッドより優れているとかそういう話ではなく、名優たちのキャリアの捉え方が違っていて面白い、という話である。

tea-rwb.hatenablog.com

 いずれにしてもまた名優が銀幕を去ってしまった。だが、今回は不意の死別ではなく、意気揚々と手を挙げて万雷の拍手の中の退場である。幸い、午前十時の映画祭での「スティング」の上映など、まだまだ彼の演技はこれからも生き続ける。だからこそ、しっかり彼の退場劇を目に焼き付けておくことをお勧めしたい。こんなおじいさんになりたいなぁ…