抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

ルース・ギンズバーグを描く。「ビリーブ 未来への大逆転」「RBG 最強の85歳」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は、アメリ最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグを描いた2本の映画の感想。このタイミングで2本も同一人物をドキュメンタリーと劇映画の違った側面で描かれるっていうのも、何らかの示唆を感じますよね。

 どうでも良いですけど、カメオフやFilmarksのコメント欄なんかだとマラカスさんって呼ばれることが多いのが何故なのか急に気になりだしてます。いや、抹茶さんも変だと思うんですけど。

 (以下ネタバレ有り)

 

1.ビリーブ 未来への大逆転

ビリーブ 未来への大逆転 [DVD]

WATCHA3.5点

Filmarsk3.7点

 まずは学生時代~性差別を認めさせた弁護士としてのギンズバーグを描いた実話モノとしての作品から。こちらは試写会で鑑賞しました。

 まずは秀逸だったのはOP。これから彼女が生きていく世界を表すように大量のスーツの男性に一人ドレスのルースが軽快な音楽とともに進んでいく。結構テンションがここでノリノリに。正直言って、ここからしばらくの大学生パートはいらないのでは…?などと途中まで思ってたんですが、この時のハーバードイズムが保守派の頑迷さを表していて、実際に敵方として教授が出てくるし、ルースや夫のマーティのキャラ紹介として十全に機能していたと思います。勿体ないのは時間を飛ばしてしまうせいでマーティが精巣ガンに倒れた意味が薄くなったのと、成長した娘のキャラ紹介をまたしなくてはいけなくなって中盤若干停滞したところでしょうか。

 物語としては、当時当然と思われていた仕事は夫、家庭は妻という役割意識が反映されている法律の違憲性を訴えていく裁判の話。意見が通りやすそうということで男性が逆に役割固定されているよ!という差別解消のための第1手の裁判が描かれますが、法廷物としてしっかり見ごたえのある弁舌シーンがちゃんと準備されており、しっかり説得力があったのでそこはとても良かったです。あまりにも夫のマーティが完璧人間すぎるのが気になりますが、存命中の人物の実話モノなのでこれは恐らく大規模な脚色ではないんだと思います。ルースは劇中でこの嫁さんは出世する夫を捕まえていい目をしている、なんて言われてましたが、マーティを射止めたルースの方が慧眼というべき。

 演者としては、マーティ役のアーミー・ハマーが懐の広い完璧超人を安心感抜群で演じているのが印象的ですが、ルース役のフェリシティ・ジョーンズも頭でっかち感や初めての裁判での動揺など、非言語的演技、特に目と口の演技が素晴らしかったです。 

 「ビリーブ」という邦題はあまりいいとは思わなかったが、「未来への大逆転」という副題は割と好印象で、100年前からの先例があるという裁判の戦い方の定石、そしてルースの娘も法律の道を歩んでいることで感じる縦のつながり。差別解消の為に戦うことが未来につながっていることを強く描いているのです。

 個人的には、夫婦別姓を導入すると日本の伝統的家族観が崩壊するだのなんだの言ってるどこぞの党の議員さんたちに見て欲しい。その伝統はいつからなの?なんで縛るの?この映画で露悪的に描かれている人物たちとそこに差はあるのだろうか。

2.RBG 最強の85歳

RBG [DVD]

WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

 ルース・ベイダー・ギンズバーグの功績を現在の視点から振り返るタイプのドキュメンタリー。どうやらアメリカでのRBG人気は相当のものらしい。日本で言えば、最高裁判所の裁判官の1人であり、総選挙の際に行われる国民審査についての意識の低さを考えると信じられない。

 RBG個人としてみると、「ビリーブ」で描かれたことと描かれなかったことをしっかり比較することで浮き上がってくるものがある。どうやら「ビリーブ」で描かれた法的スタンスは通底しているようだが、あちらでは最後の法廷演説シーンをクライマックスに据えるための描き方をしているが、事実としては2度目の最高裁だったようだったのでその辺はフィクションだろう。

 一方で最もフィクショナルな存在に思えた夫マーティの完璧超人ぶりはむしろ「ビリーブ」では控えめだったのでは、というぐらいで凄いと言わざるを得ない。老齢になってなお夫婦間のやりとりを見るにつけ、彼の存在をなくして現在のRBGはあり得ないと断言できる人間だっただろう。

 彼女がここまで人気になっていること自体が日本だと信じられない、といったものの、背景にトランプ政権があるのは間違いなく事実だろう。権利と自由の為に戦ってきたいわゆるリベラル的な立場の彼女は、トランプ政権やその支持母体のキリスト教福音派にとって重大な敵であり、新たに保守的な判事が2名任命されたことも大きく影響しているだろう。決して議論の際に怒ってはいけないと語る彼女の姿はどう考えてもトランプとは対照的に映る。

 ただ、彼女が世相に合わせるのではなく、あくまで個人の信条に則って活動していることをしっかりと描けているのも非常に好感が持てる。彼女がリベラルになったというよりも、社会が一気に保守的になっているだけなのかもしれない。

 翻って、日本では…。アメリカを描いた映画を見てぼーっとしちゃいけないというのはずっと言ってきていることではあるが、これもまた然りである。