抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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運命が重なるカフェ「ザ・プレイス 運命の交差点」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回の映画は「ザ・プレイス 運命の交差点」。試写会で拝見しましたよー。

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WATCHA4.5点

Filmarks4.7点

(以下ネタバレ有り)

 1.欲望と代償

 この作品のあらすじは極めて単純。The place というカフェの一番奥の席に座る男の元に次から次へと客がやって来ては願いを語る。男は持っている手帳を見ながら相手に代償行為を要求する。9人の客それぞれの欲望とその代償の行方は…みたいな感じ。

 非常に特徴的なのがこのカフェの1番奥の席から男は一度も席を立つことなく、カメラもそこから動かない。ワンシチュエーションでずーっと進行していくわけです。画面が全く変わらない中で、1対1の会話劇が殆どで進行していく。それなのに飽きることなく画面に視線が釘付けになる。うーん、凄い。

 やってくる9人の客の願いは様々。息子の病を治したい父親、視力を取り戻したい男、神の存在を感じたい修道女、ポスターの女とヤりたい労働者、夫の関心を引きたい奥さんなどなど。しょーもないものから切実なものまで欲望は多種多様。この時点で人間の業を感じます。

 男はこうした欲望の代償に別の行為を要求し、それを契約と呼びます。夫の関心を引きたいなら別の夫婦を別れさせろ、神の存在を感じたい修道女には妊娠しろ、息子の病を治すためには少女を殺せ。基本的に男からの要求は世にいう悪ではある。自分の欲望の為に、何かを犠牲にできるのか。相談者たちは常に自分を試されているわけです。

 当然物語的に後半、それぞれの相談客が絡み合っていき、殺せと命じた少女を別の男に守れと言ったり、それはそれで充分楽しく群像劇的に見ることができるのですが、どうしても考えたくなるのはこの謎の男について。

 

 ↓試写会後のトークショーをしてくださった映画パーソナリティのコトブキツカサ (@kotobukitsukasa)さん(右)と占星術研究家・翻訳家の鏡リュウジ (@Kagami_Ryuji)さん(左)。面白いトークショーでした。 f:id:tea_rwB:20190403183540j:plain

2.謎の男は何者なのか。

 劇中、一切説明が無いのが謎の男。名前も分からないし、開店直後も閉店後も同じ席に居続ける。人智を超えた願いにも対応する手帳についても説明が無い。

 相談者との関係で言えば、彼は常に受動的。とにかく詳細な報告を要求し、それを手帳にメモする。相手が「お前のせいでこんな悪事をしてるんだ!」と言えば、必ず「あなた次第」と返す。全て相手に選択を委ねる訳ですね。

 こうした謎の男について、試写会後のトークショーで映画パーソナリティのコトブキツカサさんは男の正体について、堕天使ルシファーではないか、とおっしゃられていましたが、個人的にはおおよそ同じ考えです。おおよそ、というのはそもそもそんなに聖書に詳しくないのでちゃんとルシファーのことわかってない、っていうだけです。

 謎の男は自分の意思、というような類なものを見せることなく一日の終わりにはどっと疲れた様子。あと、カフェなんで相談受けながらこの男はずーっと飲み食いしてるんですよね。会計は?とかその辺は無粋というか、気にならない描き方をされているんですが、大体の話が終わったタイミングで自分でナイフを使って青りんごの皮を剥いて食っていたのが非常に印象的でした。リンゴですよ、リンゴ。いくら聖書やキリスト教に詳しくなくてもその意味はなんとなくは分かります。禁断の果実、リンゴを食べたことでアダムとイヴはエデンの楽園を追放されて人間第1号となる訳ですよね。

 そしてこの食事の後、もはやこの時点で聖書にしか見えていない手帳を相談をカウンターから見ていた女性店員アンジェラの方へ渡して暗転。エンディングはそれまで契約完了を意味する紙の燃える描写。試写会でのトークでアンジェラ=天使の名前ということを知ったことで完全に納得。

 すなわち、謎の男は運命を支配し、願いを叶える役割を辞めて人間になりたい、と初めて自分の願いを持ち、それを店員のアンジェラと契約して叶えてもらったのではないでしょうか。つまりこれが意味することは…で次章に。

3.カフェ「ザ・プレイス」とは何だったのか。

 謎の男の正体が神的な何かであり、ラストに人間になる願いを叶えたと仮定します。この際に契約を結んだ相手はアンジェラであり、その名前は天使。ということは、当然この「ザ・プレイス」というカフェの一番奥の席、あるいはカフェ自体がなにかしら神性を帯びた場所であると考えるのは当然ではないでしょうか。

 そう考えた時に、劇中で相談相手と謎の男のやりとりが思い出されます。相談相手たちは、そもそもどうやって願いを叶える男の存在を知ったのか、何故そこまで信頼しているのか。何故つぶさに報告に訪れるのか。謎の男はどうして何においても判断を相手に委ねるのか。

 あくまで個人的な解釈ですが、このカフェ「ザ・プレイス」は言ってみれば半分黄泉の国みたいな状態なのではないでしょうか。キリスト教的な雰囲気で言えば迷える子羊状態でのみ辿り着く教会みたいな。だから、謎の男と契約を終え、握手をすると男の下には現れなくなりますし、すべての相談相手が自分の意思で契約を遂行する、あるいは破棄するの決断をしている。自分の意思を持たない人々が代償行為をしてでも欲望を叶えたいのかの決断をすることを通して、生き直すのかどうかの審判が下される。地獄の門番というか、エデンの受付というか。それがこのカフェだと感じました。

 

 まあ、トークショーでおっしゃっていた通り、正解は無く、各自が考えるタイプの映画だと思います。ただ、これだけ思考を促される、知的好奇心を刺激される映画はなかなか久しぶりでした。本日公開なので是非!