抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

平成を俯瞰する「SUNNY 強い気持ち・強い愛」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 有名だけど、「バクマン。」の実写化しか見てない大根仁監督最新作にして、韓国の名作映画のリメイクとなる「SUNNY 強い気持ち・強い愛」を扱います。

 フリーパス期間で劇場通いを優先してブログを書かないでいたのは申し上げましたが、同じように普段はだいたいしてから見に行く予習も「オーシャンズ8」を見に行くために「オーシャンズ11」だけ見て、12,13を見なかったあたりから欠き始め、今回の韓国版「サニー 永遠の仲間たち」、それから別記事にはなりますが「君の膵臓を食べたい」実写版は予習では見れず。映画の後にそれぞれ見てからブログを書いています。(何やら夏頃に書いていた文章)

 だから時間かかりすぎちゃったよ!安室ちゃんも引退しちゃったよ!!っていうかもう紅白だよ!

SUNNY 強い気持ち・強い愛

WATCHA4.5点

Filmarks4.3点

(以下ネタバレ有り)

1.そこにいる最高の仲間たち

 本作は高校時代の仲間たちと大人になってからの再会を描きながら、学生時代って良かったね感と同時に色んな人生歩んできたけど仲間って最高!という感じの映画なわけですが、それを表す役者の皆さんがほんとにパーフェクトだったと思います。

 まずは、現在パートの面々を。主人公の阿部美奈を演じる篠原涼子。結構な幸せを持つ専業主婦ながら、どこか退屈で何かを失ったかのような喪失感も持ち合わせていました。TBSの日曜劇場「この世界の片隅に」ですずさんを演じている松本穂香さんが普通に生意気な娘をやっていたのでその落差分でそう感じたのかもしれませんが笑。

 そしてきっかけとなり、言ってしまえばカリスマといえる芹香を演じた板谷由夏。病の進行を確かに感じさせながらも明確に強さを持ち、だからこそ見せる弱さも含めて最高のカリスマ性を持っていました。

 さあ渡辺直美小池栄子はかなりコメディタッチというか、高校当時のノリを温存してあの頃と変わらない感を創出していましたし、逆にともさかりえは昔と今とは違うのよ、と主張する慟哭を見せてくれました。

 ただ何よりすごいのは過去パートのメンバー。

 「ちはやふる」で圧倒的主人公力を見せつけた広瀬すずが転校してきた可愛くみえないイケてない役柄というのは無理があるのでは?と思っていましたが何のその。スター性こそ消えていないもののしっかり田舎者感満載でしたし、そのうえでとんでもない顔芸まで披露。

  大人としても圧倒的なカリスマ感を持っていた芹香を演じたのは山本舞香さん。こっちは当時のコギャル文化の最先端の中でのカリスマ性をビシッと発揮しておりこれまた好演。っていうか、完全にファンになっちゃいました。若き日の榮倉奈々さん感があって、もうそれって大好きです。(若き日の榮倉奈々を生で見たからもうそれは。詳しくはダンドリで検索!)

 そして過去編でもう一人異彩を放っていたのが池田エライザ。大人版はラストの瞬間まで見つからないわけですが、高校生ながら読モをしていて、グループの中でも孤高な存在。芹香とは違う意味の別格さを出していました。だからこそ、イケてない美奈と対比的に描けて、且つ両者の理解し合うシーンも盛り上がり、そして事件でもこの2人が中心になるのは必然に感じるわけです。

 残りのメンバーも存在感は抜群ですが、それだけでなく広瀬すず篠原涼子のような成長とは違って、それぞれの大人版キャストの高校生時代として殆ど違和感のなく見れるようになっていてよく見つけてきたなぁ、と感心してしまいました。

2.1990年代が、いや平成がそこにある。

 高校生時代と現在がシームレスに移動しながら描かれる本作では、アイテムや楽曲がその時間軸移動を分からせてくれる。

 最たるものはやはりファッション。そして、ルーズソックス、ポケベル、インタントカメラといったアイテムの数々。私は90年代生まれの男なので正直そこにあるのは、実感していないフィクショナルな世界。なのになぜか懐かしく感じる風景がそこにありました。私が気づいてないだけでもっとたくさん当時を思わせる仕掛けがあったのではないでしょうか。

 そしてポスター等でも強調されている楽曲。わざわざ劇中でめざましテレビ安室奈美恵引退のニュースを扱わせる丁寧さを持ち合わせながらも、普通劇中歌として使用するのは難しいJ-POPがふんだんに使われていました。

 その中でも一発目の「LA・LA・LA LOVE SONG」の使い方が極めて上手だったと思います。シーン的には仲間を探しに奈美が高校に出向いたところで、曲がかかりカメラが回りながら一気に時代が巻き戻る。ドラマやアニメでいえばOPにあたるところになるわけですが、ここで普通の登校ならありえないアクション、高校生には思えない揃ったダンス。そういうミュージカル系映画なの?リアリティラインをそこまで下げて見たほうがいいの?という揺さぶりから入ったおかげで前述の広瀬すずの顔芸や現代パートの小池栄子の旦那への仕返しシーンといった少しデフォルメされたギャグシーンが目立つところなく受け入れる装置になっていました。

 OPと対比で言えば、EDとなる「強い気持ち・強い愛」のダンスシーン。劇中だとあり得ない新旧のキャストがそれぞれ隣り合ってダンス。劇中では踊りが劇的にヘタクソだった広瀬すずも含めてみんなでしっかり踊っているのは、いい打ち上げを見ているかのようで、終わったころには評価を思わず上方修正(もともと評価は高い方だと思うんだけど)してしまうようないいダンスでした。

 こうした楽曲の使い方を含め、来年に終わる平成を振り返るときにはきっと1990年代が代表的に扱われるんじゃないか、平成とはコレだっ!という作品になったようにも感じました。

3.良いエンタメだが気になるのは…

 見ていて楽しい映画だったのは間違いないのですが、ストーリー、というかメッセージ的な面で少し気になるところが。

 登場人物たちが大人になったことを意味するために各々が高校生時代になかった問題を抱えています。奈美はいい方で、仕事もうまくいかず夫はパチンコ狂い・アルコール依存症で借金抱えて子どもと離れた生活・やっと結婚したのに夫の浮気。こんなに起きてる大事件の解決は仲間と再び巡り合ったその過程で達成されるものではなく、リーダーの芹香が遺言として遺した約束によって解決への道筋がなされるというもの。言ってしまえばドラえもん的解決だし、奈美の家庭の問題に関しては夫が長期出張でいないから解放されているように見えるだけに感じました。
 で、もうひとつ。実はこっちが致命的なのだが、結局これはイケてる人の物語であることから逃れられていない、という問題が立ちはだかる。

 転校してきた奈美はダサいといじられ、芹香という救世主がいなければ、どんな目にあっていたかもわからない。そこでルーズソックスを履いて、セーターを着て。必死で同調して居場所を獲得すること自体は悪いことではないと思うし、立派だと思うがダサいままで何が悪いんだろうと。「未来のミライ」でも感じた違和感でしたが、そこにいるだけで肯定されないという世界は厳しく辛いもので、例えば彼女たちに虐められたような人物から見たときにこの物語は全員抹殺を決意するようなものです。だからこそ、やられ役の鰤谷は自分からヤクに手を出した、というエクスキューズをつけているわけですが。別にエヴァを見ながら終末論を信じていたっていいと思うんですよね…

4.リメイク元との比較

 リメイク前の「サニー 永遠の仲間たち」と比較するとメンバーが一人減っていますが、これは成功だと思います。韓国版では見つけただけで放っておかれるキャラが2人になってしまっている以上、役割を集約して人数を減らすのは妥当かと。一方で、役割を集約した割に学生時代のメンバーの差別化は韓国版の方がうまくいっていたようにも感じました。あと、多分最も重要なのは奈々の飛び抜けた存在感と美人度が、韓国版のスジだと少し足りないように感じました。これは池田エライザさんの凄さだと思います。

 少し疑問の残ったメッセージ自体の問題は変わりませんが、より報酬があり得ないレベルに大きくなり、併せて口を悪くすることでギャグとしても機能しているのでこれはこれでありかな、というライン。奈美にあたるナミにの課題に関しては、しっかり娘と向き合う過程を描けているし、ついでにそれをギャグにもしちゃえてるのは良いかと。あと、あの事件程度で25年以上も離れるのか?というところの説明もリメイク前の方がしっかりしている印象です。

 ただ、リメイク元と比較してずば抜けて優れている点が曲のキャッチ―さ、でしょうか。背景になるのがコギャル文化と韓国民主化運動なのである程度リメイク版の方がキャッチーになるのは納得ですが、そのままそれが全体の明るさに繋がっていた気がします。そして、その明るい曲での打ち上げシーンはやっぱり最高。役者全員で踊らせたのは大正解です。