抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

最初で最後の初夜「追想」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 ブログの順番はめちゃくちゃですが、書き上げたやつからどんどん行きます。

 今回はTOHOシネマズシャンテに1日浸ったスーパーシャンテDAYの3作品目。今年で言えば、グレタ・ガーウィグ監督作「レディ・バード」でも主演だったシアーシャ・ローナン主演作になります。

注:ざっくりとではありますが、「ラ・ラ・ランド」のネタバレもあります。未見の方は留意ください。

追想(字幕版)

WATCHA3.0点

Filmarks3.0点

(以下ネタバレ有り)

 1.巧みな構成

 早速簡単なあらすじを言ってしまえばですね、新婚の2人が初夜に失敗して結婚後数時間で離婚しちゃう、というとてもミニマムな話なんですね。原作の邦題は「初夜」。ここまでダイレクトってすごい。まあ婚前交渉が当たり前でない時代だから成り立つ話でもあるわけですね。

 しかも話の始まりは既に結婚式の後のホテルの一室に入るところから。え、どうやって2時間弱やるんだろ、と不思議に思うわけですが、実に巧みだったのが構成。ここから要所要所でこの2人の成長、そして出会いと今日までをゆっくり見せていきます。おかげで行為が始まるまで、あるいは決着を見るまで回想が入るたびに焦らされること。この作品に関して言えば、それが2人の積み重ねた時間なんかを想起させてまた良かったりしました。

2.育ってきた環境が違うから~

 シアーシャ・ローナンが別格の美しさと演技力で演じるフローレンスは楽団に所属し、上流階級の出身。母親は反共的な描写もされますし、父権的な家庭であることもテニスの描写から分かります。と同時に、性に関する知識を妹と読書で得ようとするなど、保守的なうえに箱入りに育てられていることが明白です。

 シアーシャ・ローナンの儚くも美しい、それでいてキュートにも感じる演技は本当に最高で、とても「レディ・バード」での悪ぶってとっとと処女を失いたがってたのと同一人物が演じているようには感じませんでした。すげぇ女優さんです。 

tea-rwb.hatenablog.com

 一方の、エドワードは非常に独創的な一家の出で、母親はまるでドリフのコントのように電車の扉に頭を打たれて障がいが残り、エキセントリックな振る舞いが目立つ。学校でいい成績を取ったこともほめてもらえず、妹たちも母親よりの感性なのか、その不満に共感も得られない、といった感じ。そんな彼が精いっぱいのオシャレで偶然出会ったのがフローレンスでした。

 両者の環境が徹底的に違うことがわかったのが、やはりそれぞれの家との交流でしょう。エドワードの家に行った際には、全員から歓迎され、家族の一員としてしっかりと認められていました。一方、フローレンスの父親はエドワードに自分の会社に入るように強制し、更に自分の得意なテニスでたった1ゲーム(1セットじゃないですよ)取られただけで滅茶苦茶不機嫌になる。あくまで家族の一員という感じは見えませんでした。

 こうした環境の違いが明白にされていき、ついに訪れた新婚初夜。男なのでどうしてもエドワードに肩入れしてみてしまうと、キスは許されてもそれ以上は許されなかった新婚初夜。あまりにうまくいかないいわゆる前戯のようなところはギャグのようにも映りながらも、なんとかたどり着いたその瞬間に彼は暴発させてつい、大声を出してしまうわけですね。寸前での童貞卒業失敗、しかもフローレンスは部屋を飛び出して行ってしまいます。男からしたらこれ以上ない大恥なわけですな。

 一方、フローレンスとしては咄嗟の大声なんかが父親に重なっているだけでなく、父親からの性的虐待もあったのでは、とうかがわせる描写もあり、思わぬ形で性行為への嫌悪感が出た、ということにでもなるのでしょうか。こちらが部屋を飛び出して行ってしまうのも納得というか。

 こののち、フローレンスを追いかけたエドワード。2人は浜辺で話し合いを持ちます。フローレンスの提案は、性的不能であるから性欲に関しては、外ですませてほしい、それでいいから結婚生活を継続しようというもの。彼女の気持ちを考えれば致し方ない、とは思いますが、大恥かいたばかりのエドワードにとってはいよいよ屈辱的。まだ若すぎる2人は結局対立を埋められず、この浜辺が永遠の別れとなるのです。

3.劣化版LA・LA・LAND?

 と、ここまで凄く儚くていい話だなぁ、苦いなぁ、「レディ・バード」と合わせてみたいなぁ…と思っていたら唐突にT.REXの「20th Centry Boy」がかかり、エドワードは36歳。ここまで過去に飛ぶときは、指輪の有無や音楽などで分からせていたのに急にビシッと字幕で〇年後って出たので少し拍子抜けしてしまいました。

 エドワードは語っていた夢とは全く違うレコード屋をやりながら自堕落な生活を送っている毎日。そんなときやってきた女の子は、自分の好きなバンドのレコードを求めていて、母親に贈りたいという。名前を聞けば、かつてフローレンスがつけたいと言っていた名前。エドワードは彼女が結婚し、かつて一緒に聞いた音楽をまだ好きであることを知るわけです。

 ふんふん、そういうエンドもあるよね、なーんて思っていたら再び時間がとんでエドワードはすっかり老人に。フローレンスの所属する楽団が、昔語っていた夢である場所で解散コンサートを行うことをラジオで知ります。エドワードはいてもたってもいられなくなり、かつて約束した席でその模様を見届け、その隣に自分がいたかもしれない未来を思う、ってこれラ・ラ・ランド・ですよね??

 なんというか、この瞬間一気に冷めてしまったというか。あんなに美しかった儚い物語が一気に、ラ・ラ・ランドのフォロワー?劣化版?そんな感じになってしまったように感じました。

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 この後に流れるラストカットは再び初夜に時制が戻り、浜辺で2人が背を向けあう、二度と交わらない両者を表していて、海の美しさも相まって非常に素晴らしい終わり方だっただけに不満が残りましたねぇ。