抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

NHK3夜連続ドラマ「万灯」「夜警」「満願」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB) | Twitterです。

 今回取り上げるのはNHKの3夜連続スペシャルドラマ。その年のミステリーランキングを席巻した米澤穂信さんの短編集「満願」を原作としています。

 米澤穂信先生と言えば、「満願」以外にも「氷菓」をはじめとした古典部シリーズや「折れた竜骨」などが思い出されますし、実写化をなんとなく見た気がするけど忘れたくなってる気もする「インシテミル」なんかもあります。新本格の系譜に連なる名作家先生といっていいでしょう。

 原作本の感想はコチラです。 

tea-rwb.hatenablog.com

Filmarks4.5点

第1夜万灯

 原作で最も映像化に適した尺な気がする本作。主演は西島秀俊さん。誉田哲也さんの姫川シリーズなんかでの刑事役、バチスタシリーズの速水先生が印象深い全方位型イケメンですね。TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」でお馴染みの名優駒木根隆介さんも出演されておりました。

 話のネタとしては、資源開発の為に部族の長を殺す会社員のお話。なんですが…

 小説と映像化での大きな違いはモノローグがどうしても限られることです。そのため感情表現をうまく映像で演出しないといけません。そこが少し弱かったように感じました。

 それが極めて強く出ているのが主人公の伊丹でした。自分の仕事に誇りをもって取り組んでいる様子や、次第に追い込まれていく様子はしっかりと描けていましたが、アラム殺害後の彼の気持ちの動きが見えてこない気がしました。殺害の時点で森下を見切り、完全に下に見て処分する決意を固めるわけですね。これもすべて仕事の為。そしてすべてを知って彼は裁かれている心境に達するわけです。ここで自分がしたことが仕事の為に正しかったのか、人道に外れてたから報いなのか。その葛藤があるわけですが、この内面描写が省略されたため、ただのクレイジーな仕事人間というか、コレラにかかったこと自体について、「俺は悪くない」的な合理化を図ってるようにしか感じないキャラになった。

 と同時に、重要なファクターを一つ書き落としていたのも言及しなくてはならない。空港で警官にハンカチを拾ってもらうシーンはオリジナルだが、原作では飛行機内から体調を悪くしたことをきっかけに検疫にかかるわけで、そのシーンでのスリルを書き換えたんだと思いますが、これに伴い伊丹が現地でコレラを罹患したまま来日しただけの可能性が排除できず、森下と入国後に会っていたことが証明できないので伊丹は逃げおおせるはずなのです。これなくして、彼が諦めるほど頭の悪い人物ではないはずです。

第2夜夜警

 今回の主演はヤスケン安田顕さんです。個人的にはSPECの海野先生、あるいは小岩井農場で牛乳をリバースする人として、あるいは安田さんonちゃんとしてお馴染みですね。

 前夜の万灯は全体を通して少し画面が暗く見づらい場面が多かったのですが、今回は明るめな絵作りが多かったのが印象的です。

 話としては時間、移動距離なんかも含めて極めてミニマムな話なんですが回想をうまく使うことでメインのお兄さんとの対話シーンを綺麗につないでいました。1回目の発砲シーンの回想では銃声を4発させた後に視点を変えて1発聞かせる手法であたかも5発撃ったかのように見せて真相をまだ気づいていないことも提示しているのもよかった。

 ラスト、看板に空いた穴を見つけ、そしてそれが撤去されるというのはめちゃくちゃスマートな見せ方でしたね。

 原作も素晴らしい出来だったのですが、アレンジを加えながらも映像化としても大成功していたのではないでしょうか。

 

第3夜満願

 原作の表題作にして、Why done itの秀作でした。主演は高良健吾さん。君はいい子、万引き家族などで通りすがりの正義をふりかざす人って印象ですが、役柄的には嫌いな役が多いです、高良さんは悪くないっていうかむしろいい演技ということだとは思うんですが。

 まずもって抜群のキャスティングに言及せねばなりません。主演の高良さんもよかったですが、抜群だったのは市川実日子さん。下宿先のどこかもの悲しげで色気も漂う古風な奥さんを演じていましたが、これが抜群。儚げで、それでいて芯のある強い女性であることが十分に伝わってくる素晴らしい演技でした。まあシンゴジ以降かなり市川さん人気が高まっているのは承知ですが、こちとら喰いタンから好きだからな!!(なんの意地)

  夫役の寺島進さんの昔ながらのダメな親父が最高で、そんな中でも本作で最も印象深い台詞「女房が立派なのはなお悪い」というのは響きますねぇ。

 実は殺す事が目的なのではなく、家宝を借金のカタにとられないために証拠にすることが目的ということ、それを殺意の否定に使っていたという主人公藤井の虚無感なんかがいい後味をだす終わり方でした。実写になることでかなり哀愁が加味されたように感じます。

 達磨が背中を向けていた、ということから計画殺人であったことが分かるなど、全3夜のうちでは全部を言葉で語ることなく、映像で見せる部分が最も多かったわけですが、わからない人には説明不足に映ったかもしれません。ただ、原作既読者としては十分、というか完璧でした。

 

 振り返ってみれば、全編ともそうですが、どうしてもカタルシスが得られにくい、対他者の謎解きのシーンがない作品なのでなかなか映像化は厳しい戦いだったと思います。その中でもNHKは最大級の戦果をあげたのではないでしょうか。