抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

はい、出ました今年ベスト級「タクシー運転手 約束は海を越えて」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 韓国映画デビューしてからすぐに連チャンで見たのが本作「タクシー運転手 約束は海を越えて」になります。セッション22での特集やたまむすびでの町山さんの紹介などで、きっとこれはいい映画だろうと思っていたので見に行ったら大当たり。今年ベスト級がまともや飛び出しました。それにしても、WOWWOWぷらすととたまむすび、アトロクにセッションで紹介された映画を全部チェックしてたら財布も時間も無くなりそうだけど、いい映画ばっかだから困る…

タクシー運転手 ?約束は海を越えて?(字幕版)

WATCHA5.0点

Filmarks4.9点

(以下ネタバレ有り)

 1.まずはおっさんが愉快な前半

 本作の主人公はソン・ガンホ演じるタクシー運転手のキム・マンソプ。但し劇中でも自他ともに名乗ることは殆どないので記事中でも運転手と書くことになるでしょう。

 彼の運転しながらの熱唱で幕を開ける本作は大きく2部構成。前半は光州に行くまで。後半は勿論帰るまで。まずはその前半を。

 まずはタクシーを運転しながら、彼の人となりを表すようなエピソードを続けるんですが、全編にわたってこの運転手は独り言が多い!モノローグなしの映画なので説明の方法として仕方ないですし、言葉以外の映画的演出も多いので問題ないとは思いますが。描写されているのは、深い考えは持たずに日銭に困っている感じ。デモを行う学生を商売の邪魔だ、学生の本分は勉強だろと毒づき、タクシーの破損には大いに怒るし、どうやらとても大切に思っている様子。まあ商売道具だから仕方ないですが。しかし、妊婦を運んだ時には落ち着かせようと言葉をかけるなど決して不誠実な人物ではないこともわかります。

 家に帰ってみれば、貧しい家に娘と2人暮らし。娘には強く出れるのに、けんか相手に大家の奥さんが出てきたら弱気になって結局頭を下げて帰ってくる。と思ったら、別の日にはその大家の旦那の方とは仲良しで延滞している家賃を彼から借りようとする。そこで、光州行きの話を耳に挟んで儲け話として仕事を横取りして光州に向かっていくことになるのです…。余談ですが、この時の愉快なステップは大変にかわいかったです。

 光州に向かう過程は、かなり一方的なコミュニケーション。サウジアラビアでトラックを運転した話などを繰り返し、光州に届けてお金をもらう事しか考えていないことがわかります。

2.激動の光州

 光州に入ってびっくり。なんとそこでは軍・政府が民衆相手に攻撃を繰り広げているのです。光州に入ってもまだ学生のデモと軍の対立だと思い込もうとしている運転手ですが、少しずつカメラを回すピーターに同行しながら現実を認識していきます。

 そして帰ろうとしたタイミングでタクシーが故障。娘のために帰らないといけない、という父としての思いが溢れます。身を寄せることになった一家での幸せな一夜。出てきた料理に娘への不甲斐なさも感じる。賑やかな夜はこの映画最後の笑いどころでした。そんな中、彼らは不用意に取材に繰り出したために当局に追われ、通訳をしていたジェシクともはぐれてしまいます。現実と向き合い、恐怖した運転手はピーターと寝床で聞こえるはずのない韓国語で自分語り。まあここは観客向けでもあるでしょう。そのまま運転手は娘の為に早朝に光州を抜け出します。

 ところが、光州の外では政府の流した誤った情報が広がり、現実が伝わっていない。真実を伝えるためにピーターを光州から脱出させる為、光州に舞い戻ります。舞い戻った先の病院でショックを受けているピーターに運転手は「撮れ!」と鼓舞。この辺りから、2人のコミュニケーションは双方向になり、最後は確実に戦友となっていました。

 そしてそのまま事態が悪化した光州でけが人救出作戦にタクシーで参加することに。当然タクシーは銃撃されることになりますが、彼は亡き妻への思いより、いまここの負傷者、現実を選択して行動に出るわけです。ああ、もうここで感動が押し寄せます。

 こののち、光州を脱出したかに見えたピーターと運転手は、当局に追跡され絶体絶命。そこに助けに来たのは共にけが人救出作戦を行った光州のタクシー運転手たち。1人1殺、ここは俺に任せて先に行け!方式で当局の追跡を逃れて真実は無事、白日の下にさらされる…。空港での逃げ切り方は80年代だから助かったね感もありますが、まあいいでしょう。

 いやあ、ざっと書き出してしまいましたが、本当にあったとは思えないことだらけ。最後のカーチェイスはフィクションだとは思いますが、出会いは仕事の横取り、別れには偽名を記しタクシー運転手の正体がわからなかった、なんて事実は小説より奇なりを地でいく感じ。

 そして、もう一つ信じられないのが光州事件自体。政府が暴徒化したわけでもない国民に銃を向けるなんて。銃どころじゃありませんでした。機関銃、ヘリからの掃討。まさしくあれは戦争と呼ぶべきレベルの自体。そんなことがたった30年前の韓国で起こっていたというのが驚きでした。

 これだけの重々しい事件を前後半でテンションの違う構成にしながら見事にエンターテインメントに仕立てている腕前は本当に見事の一言。

 どうしても苦言を呈するなら、せっかく死を覚悟した後の娘との再会。抱き合って泣くだけでなく、買ってあげた靴を履いて別の日におでかけしている映像を挟んであげることでこちらを号泣させてほしかった、それぐらいではないでしょうか。

 あと多分、ピーターは韓国語ヒアリングは少しできてたよね…?笑