抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

完成しただけで感無量「虐殺器官」

こんにちは、抹茶マラカス (@tea_rwB) です。

今回は私の大好きな作家伊藤計劃のアニメ映画化「虐殺器官」です。

正直、タイトル通り内容云々より上映してくれたことで5億点です。

虐殺器官(完全生産限定版) [Blu-ray]

 

WATCHA4.5点

Filmarks4.5点

 (以下ネタバレあり)

1.そもそもなぜ上映だけで感無量なのか

 本来この映画は2015年の10月に伊藤計劃映画化の3部作の皮切りになる予定でした。しかしながら、度重なる公開延期。そしてまさかの制作元のマングローブが破産。後悔は不可能と言われながら、プロデューサーの山本さんが自分でスタジオを設立して制作を継続してくれた作品なのです。だから1年待ったとはいえ、やってくれてそれだけで嬉しかったんですね。

 経緯についてなどは詳しくは↓を。

news.mynavi.jp

 

2.伊藤計劃

 この作品の原作小説『虐殺器官』は伊藤計劃の処女小説となります。しかしながら、彼はこの後、『ハーモニー』を脱稿した後、『屍者の帝国』の始めの30ページ程度を遺して旅立ってしまいます。その少ない著作ながら、彼の著作は多くの賞を獲得・ノミネートされて、国内外で高い評価を受けています。『屍者の帝国』を完成させた円城塔と並んで、ゼロ年代の日本を代表する伊藤計劃ですが、彼の作品にはしっかりとテーマが込められています。『虐殺器官』では生と死、罪そして言語です。

 そのため私のスタンスとしては、このテーマを如何に監督さんが読み込んで、映像化するのか、に集中していました。

 

3.映画「虐殺器官

 さて、実際の映画ではどうだったか。私は・・・監督の村瀬さんに拍手を送りたいと思います。テーマの一つに言語があるだけに、書籍ならではの難しいやりとりを臆することなく盛り込んでいきながらも、映像だからこそできる表現方法での描写もしっかりと行っていました。

 1生と死

  本作では人間の脳とは複数のモジュールで構成されているものとして扱われます。そして、そのモジュールのどれほど部分が機能を停止した時点で、人間は死ぬのか。

 クラヴィスたちは、戦場に向かう前に事前に痛覚マスキングと呼ばれる痛みを感じなくなる措置(厳密には認識できるが痛覚が存在しなくなる)を行っていますが、これだってモジュールの一部をいじっているのです。どこから生でどこから死なのか。一度捕縛したジョン・ポールを捕縛した後の奪還された襲撃では、リーランドがほぼ下半身すべてを失いながらも会話を続けています。彼は何時死んだといえるのでしょうか。

 原作において、クラヴィスは自分の内面世界で常に自問自答しています。これは、母親の生命維持装置を外す決断を自分でしたために、自分が母親を殺したのか、あるいは既に母親は死んでいたのか、で悩み続けるためです。と同時に、母親の死に拘泥しているのに今日も戦場で子どもを心を痛めることなく殺していく自己矛盾も存在しています。映画ではこの母親関連のエピソードをまるまるカットしました。上映時間等を鑑みるとこの改変は仕方ないな、という思いですが、それ故ジョン・ポールの主張に最後に染まっていく部分が唐突に感じたかもしれません。

 また、生物学的には生きていても社会学的に死んでいた者も登場します。計数されざるものです。彼らは、無論生きて、会話をして、酒を呷っていましたが、彼らが生きていることを証明することは、データ上は不可能です。生と死の線引きは脳死問題も含めて、悩ませる問題であります。

 2罪

  そして、罪に関する意識はジョン・ポールの真の目的とも重なります。ジョン・ポールはその妻と子を失ったことに対する罪を背負い続け、また、ルツィアもその瞬間にジョンといたことを自身の罪として引き受け続けます。

 その結果彼は、彼自身の周辺の大切な人々を守るために、自身とは隔絶された世界のみで虐殺を引き起こしていました。もちろん、虐殺を引き起こすことは大きな罪ですが、しかしより大きな善のための犠牲というのは、あらゆる現実・フィクションでよくある話です。彼を本気で糾弾できる人間なんて一人だっていなかったと思います。

 だからこそ、クラヴィス自身も最後はアメリカを虐殺の文法に巻き込んで、世界を守ると同時に、その罪自体は自分で背負うことを決意したわけです。この結末部はモノローグも少なく、文法の解析をしていた描写と軍法会議のようなものに出廷して虐殺の文法をまき散らしているという事実がわかりづらかったかもしれません。

 最後の舞台であるヴィクトリア湖では、先進国で使用されている人工筋肉の生産が行われています。その素材はイルカやクジラの筋肉を培養したモノでしたが、先進国の人々はそれを殆ど知りません。これもまた、罪とは何かを考える材料かもしれません。

 

3.最後に

 物語の最後にアメリカ全土を大災禍(ザ・メイルストロム)と呼ばれる大虐殺が発生します。その終結後、極度に死を恐れるようになった人類は人体にWatch meを入れ、死なない高度医療社会というそれまでと違う高度管理社会であり、ユートピアと信じる社会を作っていきます。この続きはハーモニーで語られます。

 だからこそ、ちゃんとこの順番で映画見たかったな、という思いは尽きませんが、とにかく作ってくれた山本P、村瀬監督には頭が上がりません。我々に見せてくれてありがとうございました。

 

P.S.

音響、素晴らしいですよね。リローデッドも含め。