抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

「屍人荘の殺人」のネタバレ感想だゼァ!!

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 えー、ついにやってきました。原作大絶賛、私的推理小説平成ベストタイトルにも選出した今村昌弘著『屍人荘の殺人』の実写映画化です。

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 何を言ってもネタバレだからな!本読んだ年明けから1年間もネタバレしないように気を付けたんだ!すぐ行くぞ!

 あ、普段は土日は更新しない主義ですが、年末進行です。こっからほぼ毎日更新ぐらいの勢いの予定!

映画チラシ 屍人荘の殺人 神木隆之介 浜辺美波

WATCHA4.5点

Filmarks4.6点

(以下ネタバレ有り)

 1.ミステリを映画で描く困難さの克服

 今からものすごく曖昧な記憶で書き連ねますよ。間違ってたら赦して下さい。

 多分ヒッチコックが言った、っていうか「ヒッチコック/トリュフォー」という映画で見たんだと思いますが、ヒッチコックはミステリの映画化は全く関心を示していません。ヒッチコックは、観客だけが知りうる危機が忍び寄るハラハラをサスペンスとし、観客さえも知らない危機が訪れる模様をサプライズと評して、その2つの感情こそが観客を動かすと言っていた気がします。

 すなわち、事件が起き、その証拠を集め、そして最初に起きた謎を解く、という俗にいうミステリは構造的には一直線であり、ヒッチコックはただのパズル扱いをしていたような気がします。

ヒッチコック/トリュフォー(字幕版)

ヒッチコック/トリュフォー(字幕版)

  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: Prime Video
 

  実際、日本では2時間サスペンスが定着しているとはいえ、犯人が誰か、というところよりも動機や犯人の生い立ちの悲劇性なんかを追い求める、即ちホワイダニットばかりが多く、どうしてもそこで感情を一気に煽る印象が強いです。

 その点、今回の屍人荘の殺人は明確に新本格の文脈にあり、どのように殺した、ハウダニットと誰が殺した、フーダニットをしっかり追及している傑作の原作です。

 さあさあ、そこで今回の映画化。ミステリの実写化でどうしても不足する何も進展が観客に示されず、探偵の脳内でばかり進み、ラストで観客に提示するスタイルが2時間の映画の中で推進力が足りないことは否めません。そこを本作は元々持っているゾンビとの闘い、という点とコメディタッチにすることで進んでいなくても場が持つように脚色されました。

 この決断、非常に素晴らしかったと個人的には思います。例えば、予告編でも使われ、劇場でも笑いが起きたシーンですが、エレベーター内の死体を移動させて実況見分するシーンでは、比留子にキスさせてあげる、と言われた葉村があいあいとばかりに死体を動かすのは何も進んでいないのに状況を変化させるシーンです。

 こうしたコメディタッチへの変更の結果、爆発したのが浜辺美波さんのコメディエンヌとしての才能。「センセイ君主」の時はどうにもハマらない感じがしたのですが、彼女はふざけてる時より真顔で天然っぽいボケをかましてる時の顔が抜群に良い。だから、個人的には睡眠薬を盛られて白目向いてる比留子より、いちいち真面目に発言に起立を求めたり、武器を預けるくだりなんかが笑えました。

 勿論、受けとしての神木隆之介さんの演技が素晴らしかったことも勿論です。探偵学園Qでは頭いい方の役だったので漏れ出ないかと思いましたが、可愛いが漏れ出るチョロさをしっかり演じてくれました。まあ原作より良い人になっちゃってますがね。

 ここまで考えると、監督のATARUの木村ひさし、脚本にTRICKシリーズの蒔田光治を起用したのも納得がいきます。

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2.実写化しても確かに感じる新本格へのリスペクト。確かにミステリ映画だ。

 映画館からの帰り際にFilmarksでこの映画の感想見ていたら、思った以上に低評価で、しかもミステリじゃねぇ、なんて評価が多かったのでここでそのことに関して原作を念頭に置きつつ考えてみたいと思います。

 まず原作が新本格であることは既読者なら問答無用でわかっていただけると思います。その上で、その先達である館ものへのリスペクトもしっかり感じるでしょう。

 翻って映画ではどうだったのか。今回の映画では、ゾンビになってしまう原因であるウイルスをばらまく連中がイマイチ分からないので、結果的にただのクローズドサークル要員に見えてしまって、ただの装置化しているようにも感じます。

 ちゃんと考えれば、比留子がしっかり言っているように、ゾンビにしかあり得ない殺害方法と人間にしかあり得ないメッセージ、という一つの事件の中にゾンビと人間、どっちが犯人か、という謎自体にも明確に関わっている訳です。

 では、何故それが伝わりずらかったのか。原作からオミットされた会話にこの秘密はあります。比留子と葉村は、密室殺人に関する議論を交わしており、もはや密室殺人のパターンは出尽くしているが、複数のパターンを組み合わせることで新たなパターンが作れる、という議論がなされている。これこそまさにクローズドサークルにゾンビを用いる手法自体に自己言及していると言えます。また、映画にも登場し、多少の匂わせがありましたが、重元はゾンビオタクです。屍人荘の周りで起きている現象をゾンビだと断定するまでのプロセスにおいても、感染原因やゾンビの殺害方法(脳を壊す)などについて入念に議論を重ねています。重元の存在意義は正直それがメインなのが可哀想ですが。

 で、こうした会話はミステリオタクの葉村とゾンビオタクの重元が比留子に情報を提供する形になるわけですが、これは蓋然性の高い可能性を一つずつ検討して、どんなに可能性が低かろうとも、信じがたくとも残った一つの可能性が真実である、という極めて本格のアプローチをとっています。

 この部分のオミットは苦渋の決断だったと思います。ここが重要であることが分かっているのは、ゾンビがウイルス感染であること、生殖の為に噛むといった検討がなされていること、それから密室の作り方は実践を1度やっている事からも分かります。ただ、どうしてもラストの全員を集めてのトリック説明では説明台詞が長めになってしまう。たまたまです、ギャグを挟むにしても限界がある。そんな中で更なる説明をしてしまうというのはあまりにも平板になってしまう。その為に止む無くだったのは分かりますし、ユーゴーの像の傾きやエレベーターの積載重量オーバー、帰ってきたところがおかしかった進藤、ちゃんと原作にもある館ものの鉄板、建物の見取り図・部屋割りを見せることで、映画でしかできないビジュアルでヒントを提示するフェアな謎解きになるようにしっかり出来ていたと思います。

 まあ結局は、観客の知識を信じた、というか。もはや市民権を得ていると言っていいゾンビものの定番やミステリの基本情報に関しては知ってるでしょ?とこっちにぶん投げた、ということだと思います。そっちよりテンポを優先した、ということで。

3.ミステリと引き換えにしたエンタメ性

 勿論、他にも原作と違うことは多数あります。元々映画研究部だったのをフェス研に代えたのも、フェス会場がゾンビ発生源なので別に問題ないでしょう。

 ただ、高木・出目・静原を大学外の人物としたことでOBが女子を漁る為にしては女子が本当にいなすぎる合宿になっちゃったのは否めないし、犯人である静原が合流するプロセスが非常に不確定要素の強いものになってしまっていました。フェス現場で襲われることにしたかったからだと思いますが、静原はせめて学内の人物であるべきだったでしょう。

 まあそれとどうしても言及しなきゃいけないのはラストですよね。自衛隊らしき人たちまで来て助かっている中で、自衛隊のトラックの裏にいるのがゾンビ明智で…というのは、どう考えてもおかしいですよね、うん。正直、ここは原作通りの順番で良かったよな、と思います。少し欲しがっちゃいましたね。ただ、正直言ってもっと早く対面してずっと追い回されたり、葉村がトドメを刺す展開もあると想像していたのでそんなにガッカリ、というほどでもないですね。これが訓練された原作厨ですよ。

 既に次の話『魔眼の匣の殺人』で斑目機関の追及を比留子&葉村のコンビでやっているので、その映像がポストクレジットあたりで流れるかと思いましたが、続編は興収次第なんでしょう。っていうか、まだ読んでねぇな…。

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

 

実はがっこうぐらし!に向けたゾンビ映画ラソンはこの映画のためだったりするのだ…