抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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フランスでも是枝映画「真実」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。
 TOHOシネマズフリーパス期間中なのに、どうしても日程上こぼれそうなのでお金払って違う劇場で見てきました。是枝監督最新作「真実」の感想です。

【映画パンフレット】 真実 LA VERITE 監督 是枝裕和 キャスト カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク

WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレあり)

1. 圧倒的威圧感を持つ樹木希林と絶対いい奴イーサン・ホーク

 前作「万引き家族」で疑似家族を描いて国際的にも頂点に達した是枝監督の最新作はまさかのフランス映画。そして、そこでは従来描いてきた血縁としての家族の物語に絞ってきました。

 この中で何と言っても目を引くのは、物語を振り回す立場である大女優ファビエンヌを演じるカトリーヌ・ドヌーヴ。まだまだ映画弱者だと思い知らされますが、私これまで存じ上げず。主人公のジュリエット・ビノシュさんもかなりの大物らしいのですが、全く覚えがない。人の顔や名前を覚えるのが得意ではないとはいえ、まだまだ勉強不足です。

 閑話休題、このファビエンヌが凄かった。とにかく我儘で、自己中心的で、私生活や他のすべてがダメでも芝居が上手ければいい、というタイプの女優。インタビューでも、「あれ、あの人死んでないっけ?」なんて存命の人物に対して言ったりと、本当に自分にしか関心がない。色んな方が仰っているとは思いますが、是枝作品だということを加味しても、どうみても樹木希林さんにしか見えない。なんだったら、希林さんに肉体的威圧感と圧倒的主役感を付け足した感じですね。希林さんはジワジワタイプの強さですけど、カトリーヌ・ドヌーヴは一発でトドメをさせる感じ。勿論、この孤高な強さは劇中でも幾度も登場する彼女の姉妹で事故死した女優のサラの亡霊と闘っていたが故でもあったことは語られましたが、いやそれにしたって強い。そして、ファビエンヌが女優ということもあって、カトリーヌ・ドヌーヴ本人もこんな人なのかもしれない…と完全に信じ込んじゃいます。ヘビースモーカーなのは同じらしいですが。

 もう1人、映画と同じじゃない?と信じ込んじゃうのがリュミールの夫を演じるイーサン・ホーク。いや、なんとなくダメな男っぷり、アル中で施設での治療も経験済み、なんて辺りを感じさせる名演なんですが、何より子どもと触れ合うシーンの笑顔が。是枝作品と言えば、子役の扱いが非常に上手なことで知られていますが、国籍を越えて今回も子役は輝き、そして一緒に遊んでいるイーサン・ホークの無邪気な笑顔が本当に尊い…マジで推せる。私生活でも子どもが好きであってほしい、そういうチャリティーとかしててほしい、マジで。

2.映画を扱う映画

 鑑賞前に予告編を見た印象だと、もっとファビエンヌの著書「真実」の内容に関して、リュミールが詰めて、ファビエンヌが躱す、みたいな逆転裁判みたいな感じだと思っていたんですけど、そんなこと全然無くて。

 本作では「母の記憶に」という映画撮影をファビエンヌが同時並行で行っているので、物語内物語が同居して、かつシンクロする、という映画で映画を扱う意味がある内容になっていました。宇宙に行くと年を取らない設定の中で母親だけが宇宙に行き、地球に7年おきに戻るたびに親子での関係が変容していく物語。じゃあ全人類宇宙に行けばいいのに、という文句は置いておくとして、年齢が逆転して若き母と齢80を数える娘、というシーンの構図がそのまま現在のファビエンヌの抱える親子関係の問題と重なり、そしてファビエンヌとリミュール親子で、宇宙に行っている母を演じる女優と姿がリンクするサラの死を乗り越え、関係を前進させていく。

3.FactとTruth

 映画、そしてファビエンヌの著書のタイトルは「真実」。だが、混同してはいけないのは「事実」と「真実」は異なる、ということ。色んな映画で語られるテーマでもあるので、私も例えば「アメリカン・アニマルズ」の記事とかで書いた記憶があります。

 「事実」は神視点で起こったことを正確に並べたもの。ジャーナリズムには非常に重要です。一方で、「真実」はそれぞれ個人が抱えるものであり、実は主観が極めて入っている。特に今作ではリュミールの思う「真実」は意外と間違えた記憶に裏打ちされたものだったことが段々わかってきたり。だから、ファビエンヌの「真実」の本にサラや執事リュックが登場しないのも許されるのです。自伝とはいえ、女優ファビエンヌブランディングに必要がないのだから。勿論、嘘はダメだと思いますが、書かないことを責めることはできないと思います。まあ、サラの再来と言われる女優と映画を撮っているタイミングでの発売なのにサラのエピソードゼロの原稿持ってきたら、普通は編集者失格な気がしますが。

 いずれにしても、本作は家族の再生の物語の中にも、家族だって抱える「真実」は違うし、そしてそれは継承されることを示して幕を閉じました。ファビエンヌがリュミールの娘が「女優になりたい」「おばあちゃんは宇宙船に乗って私が女優になったところを見て」なんて言ったことに対してどうリアクションしたのかは描かれませんが、彼女の中の幸せな思い出の1ページになるかもしれません。一方で、リュミールにとっては脚本を書いて娘に芝居させた親孝行であり、娘にとっては初めての芝居かもしれません。リュミールが「オズの魔法使」でライオン役をやった際に、ファビエンヌが来なかったことをずーっと根に持っていたことを考えると、娘さんにとっても一生の思い出、しかもリュミールと解釈の異なる真実として残るかもしれませんね。

 それにしてもフランスで言葉の通じない相手に映画を撮っても是枝さんの映画になるから凄い。

 撮影時のあんなことやこんなことは是非、以下のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」のログから是枝監督生インタビューを。

www.tbsradio.jp