抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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人生まだまだ生きていくよ、ダサくても。「ブルーアワーにぶっ飛ばす」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は「ブルーアワーにぶっ飛ばす」の感想。普通に大好物臭いタイトルの上に、夏帆×シム・ウンギョンということでまあそりゃ見ますよ。

 よく知らなかったんですけど、制作サイドにTSUTAYAカルチュア・コンビニエンス・クラブっぽい名前があるな、と思ってたんですけど、TSUTAYAがらみの賞の作品だったんですね。

ブルーアワーにぶっ飛ばす (徳間文庫)

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有り)

1.軽妙な会話劇。役者みんな最高かよ。

 本作は、30代で結婚してるけど子はいらねぇ、やってまっかで暖簾潜ったらやってるわのノリで不倫もして、理論武装で引きつったブスに見える笑顔を見せる夏帆が演じる砂田と、カタコトが少し気になる良い距離感の後輩?シム・ウンギョン演じるキヨが砂田の実家の茨城に帰る、それだけの話。

 このシム・ウンギョンさん演じるキヨが最高にいいんですよね。「新聞記者」では色々理由をつけてカタコトの日本語で許し、あんまり長台詞を喋ってる印象はありませんでしたけど、今回はがっつりと会話劇。そんな中で、相変わらず多少カタコト気味ではあるものの、なんだかいい感じの後輩感を出す演技が素晴らしく。それで会話の店舗が軽妙になっていくんですが、会話以外でも砂田母子の会話の最中も勝手に菓子食ってむせたり、喫茶店で完食して不味いといい(挑戦したのに期待に応えられなかったのです、が後から響く)、納豆はごはんお代わりしたのにあげちゃう。超マイペース。

 そして脇を固める役者陣が凄い!まあまずは出番の多さで言えば、砂田の母役の南果歩さんと父役のでんでんさん。「葛城事件」「冷たい熱帯魚」の危険な一家に見えることもなく、茨城弁を駆使しての名演。砂田の兄を演じた黒田大輔さんはオタク言葉的な早口で、どこか彼もリズムを乱す。教員なのにどこか道を踏み外しそうにみえる演技で印象的です。

 だが、最も声を大にして褒め称えるべきは茨城のスナックで出会う伊藤沙莉さんですよ。夏帆さんよりも年下なのに明らかに人生経験豊富なチーママのセクハラ躱しをハスキーボイスで炸裂させていて。短時間ながらめちゃめちゃ印象に残りました。多分、これって後述するこの作品のテーマと大きく関わるから、だと思うんですけどね。

 会話劇も軽妙ですが、編集や音響の付け方も割と変則的。予期せぬタイミングでカットや場面が変わり、フィクションラインが浮くような効果音がついたり。ちょっとふわふわしている、でもそれがいい。そんな感じの映画に仕上がっていたと思います。

2.ブルーアワーっていつよ

 ブルーアワーとは、青い時間、というだけあるし、劇中でも何度も登場する空の青い時間。厳密には日の入り直後と日の出前のこと。んで、劇中で出てくるときのブルーアワーって割と子どもの時の回想が多かったり。人生における日の出前、大人になる直前とダブルミーニングになってますね。

 という訳で、最大のネタバレ。この人生のブルーアワーの時期の象徴がキヨであり、キヨは砂田のイマジナリーフレンドでした、という具合です。そう思えば、キヨの色んな子どもっぽい行動も納得できる。CMクリエイター業界で生きる砂田は飲み会で、40で現役のやつなんていない、走ってないと死んでしまう、だったら半分死んでるわ、なんて言ってるわけです。自分の中のブルーアワーを引きずったまま、むしろ自らを死に近い存在として考えている。だから、生の象徴の子どもに対しても後ろ向きだし、ブルーアワーの時期を共にした祖母の弱っている姿は見たくない。それって、自分の自身の無さの裏打ちになってしまうから。

 でも、祖母の具合が良くなったタイミングで見舞いに行って、数年ぶりに家族とも交流する。それで砂田は自分の中のブルーアワーと決着をつけることになります。

3.生きていくよ、最初からダサいもん。

 砂田が茨城で巡るのは、なんてことない田舎の風景と確実に老いている両親、そして生死が詰まった病院と牛舎。そこはブルーアワーの時期を過ごした場所でありながら、既に自分が住んだ家とは思えなくなっている。母は死にたいと思ってもいざ死ぬのはねぇ、と言い、祖母は病院のベッドに横になりながらも一生懸命生きると言う。おい、何もう死んだ気になってるんだよ、と。

 これで目が覚めたのか、砂田はスナックでやめた方がいいと言われていた理論武装した作り笑いではない自然な笑いが出ました。回していたビデオは、祖母の分だけ送ってくれ、なんて病床の祖母の姿を、ブルーアワーを受け入れる。いや、もう受け入れていたことに気づく。だから慟哭する。茨城を離れるのが、両親との別れが寂しくないのが寂しいんだと。そうするとキヨはダサいっすよ、最初から。なんて言いながら気づくと運転席にはキヨじゃなくて砂田が座っていてイマジナリーフレンドだったのがわかる。こっから先は砂田はキヨを抱えず、ダサいのをわかっていても前に進む、生きていくしかない。だから、そうやって生きてきた母がメールに電話で返すように、夫のLINEに電話で返す。そういう生き方を一番体張って提示していたのは、チーママの伊藤沙莉だったと思うんですよね。だから彼女が光って見えた。別に私の大好きな中森明菜十戒」を歌っていたからじゃないはず。