抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

嘘で何が悪い。全てのフィクションを愛する人間に贈る「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は10作目で監督辞めるでー、言うとるタランティーノ監督の第9作目長いので略称ワンハリの感想です。それに合わせて、予習篇ということで7月31日に新宿シネマカリテのカリコレというプログラムで鑑賞した「チャーリー・セズ/マンソンの女たち」というマンソン・ファミリー、まあ今作の敵役の方を描いた映画の感想も合わせて。

 「Diner」は菊千代にこれぐらいやらせてほしかったよ!!

Quentin Tarantino's Once Upon a Time in Hollywood Original Motion Picture Soundtrack

WATCHA4.0点

Filmarks4.3点

(以下ネタバレあり)

 

1.チャーリー・セズ/マンソンの女たち

Charlie Says

WATCHA3.5点

Filmarks3.3点

 まず始めに補助線として新宿シネマカリテのカリコレというプログラムの一つとして鑑賞したこちらの映画の感想を。一応初日に見たので、日本初公開の瞬間に居合わせたことになります。

 シャロン・テート殺害事件に留まらず、チャールズ・マンソンカルト教団をどのように作り上げ、維持していったのかが教団の退廃的・享楽的なムードと共に描かれている。

 ここに描かれるマンソン・ファミリーは非常に排他的で、ドラッグやセックスで思考停止状態に追いやったり、色々な不満に対して現状肯定してあげる、周囲との連絡を絶たせる、機械や書物といった反知性主義的な指示をする、異論のあるものは屁理屈でねじ伏せることで服従させる、非常に原始的な手法で洗脳している。エゴを殺してマンソンの一部となることを望まれた彼女たちは収監後3年経ったのに「said」ではなく「says」と現在形でマンソンの言葉を放ち、あなたはどう思うの?という問いには答えられれない。

 こうした支配の背後にあったのは、とっても幼稚で悪意に満ちたマンソンの意思であり、宗教学や心理学の手法をフル活用しているともいえ、知性の恐ろしさ自体をマンソンが理解していたと思える。

 勉強に放ったのだが、映画としてみると収監されているレスリー、パトリシア、スーザンの3人に対峙する教師の時制と、そこから振り返るレスリーの視点とが交差しており、少し退屈にも感じる。

 また、レスリーを違和感を抱きながら最後にはマンソンの洗脳から目覚める役として描いており、彼女も罪人なのでは?その罪を背負った先が示唆されてたのにそこは描かなくていいの?ということは感じた。実際の事件よりも描写や行動がマイルドにされているのも彼女が悪人に見えない原因だろう。

 では、こっから、ワンハリの感想へ。

2.虚実入り乱れる。嘘で何が悪い

 実はタランティーノ作品を劇場で見るのが初めてな今回。2時間半ぐらいの長丁場、耐えられるか中々に不安でした。「エンドゲーム」みたいなずっとクライマックスのエンタメアクションと違い、時に冗長に感じる会話が多いタランティーノ映画ですからね。一応、「パルプ・フィクション」「デス・プルーフ」は見たし、「イングリアス・バスターズ」は予習としてみました。同じ史実ものの「ジャンゴ」や前作「ヘイトフル・エイト」まで見れなかったのは時間の問題。共通する印象は、割と長い時間意味のなさそうな会話劇を繰り広げておいて、ラストでドーン!と映画的な快楽を爆発させる感じ。「デス・プルーフ」や「イングロリアス・バスターズ」はコレがハマって、「パルプ・フィクション」は逆にオチで上がらなかったのでそこまで、みたいな印象でした。

 そんで本作。始まってしばらくは、正直言って「あ、駄目かも…」がよぎるような展開。これまでの作品にも増して、全く波風の立たない、完全な日常が続いていくだけ。シャロン・テートを演じるマーゴット・ロビー、そして架空のハリウッドスター、リック・ファッキン・ダルトンを演じるレオナルド・ディカプリオ、更にその相棒スタントマン、クリフ・ブースを演じるブラット・ピット。この3人の華で見れている感じは否めません。いや、普通に西部劇とかは面白いと思うんですけど、どうせ続き見れないし…とか、むくれながら見ちゃたんですよね。

 ただ、要所要所でおっ、と思うのは予習のおかげ。LAの街の大きなダストボックスを漁る女性たちや、ヒッピー文化、そして説明もなく姿を現して消えていくチャールズ・マンソン。前述の「チャーリー・セズ」を見ずに、文字だけで予習をしていたら、それがヒッピー文化やマンソン・ファミリーを意味するものとは気づかないシーンにしっかり注目できたので、徐々にゆっくり、緊張感が高まっていきます。

 この映画、言ってしまえば前提条件にシャロン・テート殺害事件とマンソン・ファミリーへの既有知識が前提で、映画の中では知らなくても観客はデッドラインを知っている中で日常を見せていくので「この世界の片隅に」と同じ構造なんですよね。向こうはすずさんの奮闘、そしてアニメタッチなおかげでゆるっとしたコメディ、いわゆる日常モノに近い感覚。こっちは実写でタランティーノ式会話劇で日常を描きながら、戦争みたいな徐々に近づく悲劇じゃなくて、いきなり訪れる悲劇を待ってる感じ。戦争なしに広島に原爆の落ちる「この世界の片隅に」が近い感覚です。

 ここの日常シーンが中心ですけどこの映画、もう虚実の入り乱れ方が凄くて。ブルース・リーが出てくるは、「大脱走」の裏話チックなのが出てくるわ、セルジオ・コルブッチがリックに声を掛けてマカロニ・ウエスタンを撮るとか。詳しくないので分からないのですが、劇中でかかるラジオ、音楽、そしてドラマとかも実在したり、しなかったりなんでしょう。これだけ観客・歴史の側の史実、映画内の現実=観客には虚構、そして映画内作品=映画内でも虚構を描くことで、ラストの史実とは異なる展開への違和感を減らすと共に、タランティーノがフィクションで映画を作り続ける(って言っても多くて1本らしいですが)ことの意味を高らかに歌い上げている気がします。こういうあたり、「イングロリアス・バスターズ」でも強く感じましたし、たまたま「イングロリアス・バスターズ」と同日に見た園子温監督「地獄でなぜ悪い」の主題歌で星野源さんの「地獄でなぜ悪い」のサビ、「嘘で何が悪いか」「作り物だ世界は」なんていうのがテーマソングとして脳内に響き渡りますね。

地獄でなぜ悪い

地獄でなぜ悪い

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3.最高の多幸感。全員肯定!

 究極に緊張感が高まるのがドラマ撮影でリックが頑張っている間に、マンソン・ファミリーの本拠地に偶然乗り込むことになるクリフのシーン以降。なんとなくのヤバさや敵意は見えても、彼らがいかに凶悪になっていくのかは当人はいざ知らずで見ているコッチだけがヒヤヒヤすることになりますが、ここのサスペンスは非常に上手い。なんでもない会話を続けているだけなのに怖いし、途中名前を呼ばれるルルやテックスは予習の「チャーリー・セズ」でも重要だった人物たち。本拠地ど真ん中で超重要人物たちと接触しているのを映画の外から「志村、後ろ―!」的にハラハラすることしかできないんですよね。

 このシーンが終われば、そこからは怒涛のように日付があっさり進み、その日に。既にクリフがマンソン・ファミリーと顔見知ったことで、シャロン・テートを守っての対決かな?なんて予想通り、いや予想以上に進んでいくラストバトルはあっさりしすぎていてむしろコメディ。まさか火炎放射器が伏線だったとは。プールの水の中で火炎放射器で焼かれ狂乱している姿はギャグとしかいいようがない。

 そして1番好きなのはラストカットなんですよね。マンソン・ファミリーを撃退した後、異変を察して様子を見に来たついでに招かれてシャロン・テートとリック・ダルトンが出会う。ここで、シャロン・テートを始めとした史実での被害者たちが救済されているのは勿論なんですけど、虚構のキャラクターであるリックも救済されている、っていう。役者として落ち目だなんだ、せりふを忘れて自己嫌悪、そんなリックも演技をすればアドリブを褒められ、子役には「人生で最高の役者よ」なんてネタ的に言われますけど、彼の役者人生の肯定じゃないですか。それでトドメを刺すのが、過去に出演していた作品の火炎放射器。過去の自分も現在の自分も受け入れて肯定できたからこそ、現在を生きるスターのシャロン・テートからの招きに応じれたわけですよ。

 また、ずーっとそんなリックの影として生きてきたクリフは撃退において最もかっこよく存在を証明できる。マンソン・ファミリーという明確な悪をおくことで、登場人物を、いや、あえてこう言った方がいいかもしれません。映画に関わったすべての人物への肯定、讃歌になってるんですよね。そこでドーンとタイトルが出る。日本昔話でいえば「めでたし、めでたし」の瞬間ですよ。振り返ってみれば、冒頭の「嘘である」だったり、史実からどんどんズレてくるマカロニ・ウエスタン出演以降のナレーション処理なんかも、誰かに語られる、時間的文芸としての昔話、寓話の側面を強める役割を果たしています。

 御伽噺、夢物語で結構。それが大好きな私たちのための映画を作ってくれたクエンティン・ファッキン・タランティーノ監督に最高の賛辞と北海道中札内村の日本酒・大法螺(詳しくは水曜どうでしょうワカサギ釣り対決参照)を!!

水曜どうでしょう 第14弾 クイズ!試験に出るどうでしょう/四国八十八ヵ所/釣りバカ対決 氷上わかさぎ釣り対決 [DVD]