抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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その友情は38度線を越える「工作 黒金星と呼ばれた男」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回見てきた映画はTBSラジオたまむすび内コーナーアメリカ流れ者でも町山智浩さんに紹介されていた韓国映画「工作 黒金星と呼ばれた男」です。

 「タクシー運転手 約束は海を越えて」「1987、ある闘いの真実」と3部作みたいなもんらしい、実話ベースのポリティカルサスペンスですね。すっげーな、韓国。

どうでもいいですが、何日か前からTwitter含めアイコン全部を随分前に日光行った時に見つけた雪だるまにしました。屍者の帝国ハダリーさんのままだと噛みつかれたら迷惑かかるし、変え時探ってたらうっかり噛みつかれそうなネタに飛びついてしまったので。まあ噛みつかれなかったんですが。自意識過剰でした。すいません。ってことでそんな感じの政治信条が漏れるかもしれない作品、レッツゴー!

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WATCHA5.0点

Filmarks4.8点

(以下ネタバレあり)

1.韓国と北朝鮮。その絶妙な関係

 本作の主人公は「黒金星」(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれてますがおっさんの韓国安全企画部の工作員。なんでそのコードネームだったのかはよくわかりませんが。彼が北朝鮮の核開発の現状を探るために北朝鮮に潜入する模様と、軍事独裁政権下における金大中政権の誕生を描いた作品で、確かに前述の「タクシー運転手」「1987」と並べて韓国民主化3部作とでも呼ぶべき作品群となってます。

 韓国と北朝鮮は現在も朝鮮戦争が休戦中、南北会談なども含めて融和ムードとはいえ、依然戦争当事国なのは変わらない事実。ただ、もともとは日本が植民地化する以前から統一国家であり、両者は互いに異国民ではなく、同胞という意識が強い、という話なんかはTBSラジオセッション22などでされています。その辺の意識も含めて、南北国家が違う状態でも友情は生まれうることを描いたのがパク・チャヌク監督の「JSA」でした。

 本作においては、「JSA」の更に深い部分、工作員と外貨獲得のトップとが友情を育んだ、という最早スキャンダラスとすら言える物語を紡いでいます。しかも、それと同時並行で北風工作、即ち選挙や大統領選での与党の勝利の為に本来対立している北朝鮮に韓国側から武力挑発を依頼していた、というこれまたビックリなマッチポンプの話まで。それこそここには同胞意識、というのが多分に含まれているでしょうし、実際そんな台詞も飛び出しています。事実や実際の両国間での意識はどうあれ、金正日がそういう発言をする、という描写に韓国内で説得力がある、という風に捉えるのがいいと思います。

 自国のことではないので、この映画で描かれたことのうち、事実とフィクションの範囲が分からない、というのは認めるところですが、それにしてもすべてが事実に思える作り。事実ベースのポリティカル・サスペンスはやっぱりこうでないと。「新聞記者」と比較すると手腕の鮮やかさが目立ちました。

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2.ポリティカル・サスペンスだが、熱い友情の物語でもある。

 まずもって単純にサスペンスとして面白い、というところを指摘しなくてはなりません。スパイとして北朝鮮に潜入し、バレたら殺される、という状況下で金正日に会う、という最高レベルのミッションまで到達する。北朝鮮側、とりわけ、すっごい警戒している保衛局のチョン課長に身元がバレないようにするやり取りはそれだけでハラハラですし、平壌に乗り込む過程もサスペンスフル。どう振舞ったら正解か、多分誰も知らない金正日との会談、南北の秘密会談を盗聴するシーン、そして1回目の会談で言われた注意事項を破ってまで行った2度目の金正日への冒険。ずーっと緊張感が持続して、いつ殺されるのかとドキドキしていました。

 こうした緊張感を持続させるのに大いに貢献したのはそれぞれの俳優さんの熱演でしょう。主人公黒金星のパク・ジョンミンを演じ、松重豊さんにしか見えなかったファン・ジョンミンに北朝鮮側のキーパーソンリ局長を演じたイ・ソンミン、パクの上司のチョ・ジヌンに前述のチョン課長役のチュ・ジフン。メイン4人のおっさんたちからあふれ出る会話劇が物語の糸を緩めることなく進めていく助けでした。そういう意味では、緊張するはずなのに緩和を感じさせるキヨハラや、韓国与党議員たちの真剣味の足りない表情もまた、メイン4人を引き立たせる重要な役回りだったと思います。

 こうした彼らの熱演も合わせて、政治物語、スパイものとしの要素からドンドンと男の友情へとスライドしていきます。黒金星とリ局長はどちらも初接触から聡明に描かれているので、互いに通じるものがあることも分かり、広告事業を進める中で確かな人間的信頼を勝ち得る。リ局長はパクの正体に勘づいた後でも、国家として外貨獲得に有望だ、という建前込みでそれを見逃していく。2人で金正日に対して立ち向かうシーンは息ぴったりに意見具申を繰り出し、武力挑発を回避した後にはリ局長が北朝鮮の自宅にご招待&贈り物。これまで断り続け、金正日とすら一緒に飲まなかった酒を共に飲むシーンはたまらない。そこから黒金星の正体がリークされ平壌にいる彼が窮地に陥ってもリ局長は自分が犠牲になりうることを分かって黒金星を助けるし、ずーっと送られた腕時計を死を覚悟する瞬間までつけている描写は最早ただの萌えです。

 おそらくはフィクションだろう、事件から5年後の上海でのCM撮影での奇跡の再会で、遠巻きに贈り合ったものを見せ合うところで初めて見せるリ局長の笑み。「タクシー運転手」のタクシーバトルや「1987」の民衆大集結に続いて終盤での映画的な魅力でビシッと追い打ちしてくる韓国映画に打ちのめされる思いになりました。

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3.浩然の気

 リ局長と黒金星を繋ぐ合言葉は「浩然の気」。正しいことをしていれば、体中から出てくるこの気で、不道徳の空気が晴れていく、そんな意味の言葉。

 2人とも国の為に職務に忠実にしていましたが、明確にその職務に背くことをしています。でもそれは「浩然の気」がキーワードになることで免罪される。国家という枠組みが何のためにあるのか、リ局長は北朝鮮のとんでもない数の庶民が餓死・凍死している現状を変えたいし、黒金星は「国家・民族」のための職務なのか、金大中落選工作を通じて、与党=独裁政権のための職務なのか、混乱していく。

 何が正しいことなのか、「愛国」「忠心」とは何なのか。それは体制によっても変わるし、普遍的な正義なんてものは存在しない。だが、少なくともこの映画の中では民を思い、無用な武力衝突を避け、南北の融和に向かうことがそう描かれていた。勿論、この映画は韓国の映画であり、北朝鮮の体制に対して批判的であり、更に軍事政権下の韓国の政治体制や安企部を糾弾するものになっているのは、現在の文政権の方向性あってのものだということは認識しておかないといけない。金正日の描き方もリ局長や黒金星に言いくるめられるバカな指導者、というよりは彼自身も非常に聡明で決断力のある(独裁者とはそういうものでもあるが)リーダーとして描かれているのも、史実としての金正日がどうか、ということより現在の北朝鮮を刺激しないためかもしれない。

 でもそれらをひっくるめて、この映画が真実だ!なんていうんじゃなくて、エンターテインメイントとして優れている、という評価を下したい。こと政治を題材にした映画においては、日本は韓国の後塵を拝しているように感じます。

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