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もっと政治の映画があってもいいんじゃない?「新聞記者」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 ヒットしてるから公開から少し空いても大丈夫だろうと高を括ってたら公開からはや1か月。そろそろヤバいと「新聞記者」見てきました。東京新聞の望月記者原作なのに朝日新聞が協力に入っていて不思議な気持ちになりました。

新聞記者 (角川新書)

WATCHA3.4点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有り)

 1.キャスティングと製作意義

 この映画を語る上ではやっぱり、日本においてポリティカルサスペンスの映画がなかなか作られていない、という現状は考えるべきだと思います。ドキュメンタリーはちょこちょこありましたが、政治を題材にすると中々に厳しいのが現状。選挙がエンターテインメイントとして成立していないんだから娯楽として政治を消費できないのはある種仕方ないとは思います。

 ただ、最近のハリウッドでは「バイス」などのアダム・マッケイ監督の作品や、「ペンタゴン・ペーパーズ」や「スポットライト」、古くは「大統領の陰謀」にチャップリンの「独裁者」なんかも政治を題材にしたエンターテインメイントです。そして何より韓国。昨年の「タクシー運転手」「1987、ある闘いの真実」はフィクションとしても、政治を扱ったものとしても素晴らしい出来でした。

 こうした作品は、ハリウッドが民主党的であるという党派性は頭に入れた上で、ある政治分野の歴史的事実に対してある視点から検証を行う、という役割を示していると言えます。日本においては、政治的な出来事を検証する、という視点が徹底的に欠けている、というのは多分了解を得られるのではないでしょうか。直近の参議院選挙でもこれからやるマニフェストの話はしても、これまで国会でしてきた質問の内容や政府の施策のチェックをしっかりやっていた地上波番組は一つも無かった印象です。

 そんな現状においては、まずはまだまだ存命中・在職中の政権に対して批評的な映画がつくられた、それ自体を歓迎したいと思います。勿論、それと映画の出来・感想自体は別の軸で評価しますが、これをきっかけにそういう映画が増えてくれればいいと思います。田中角栄佐藤栄作岸信介池田勇人といった歴史を作った総理大臣や平成の政治家たち、山崎拓加藤紘一小沢一郎とか映画になりうる題材だと思うんですが…。

 意義はこの辺にしておいて、そんな中でこの映画に出ることを決断したキャストさん、皆さん非常に好演だったと思います。特にとにかく体制維持を優先する多田を演じた田中哲司さんは、冷徹な、非常にいやーな悪役として素晴らしい演技だったと思います。そしてあと一人。主演のシム・ウンギョンさん。あえて日本人ではない役者さんが起用されましたが、むしろ余所者感のある彼女だからこそ、調査にのめり込んでいく、暴いていく過程に躊躇が生まれないことの理由にも繋がるし、日本語も十分話せていたし、全く問題ない、むしろナイスチョイスだったと思います。勿論、もう一人の主演・松坂桃李さんも素晴らしかった。国を守る、情報を流すという相反するかのような行動を組織と個人の狭間で揺れながらの表情は鬼気迫るものがありました。

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2.現実に立脚しているが故の問題

 今作は実話に基づく…とかもありませんが、露骨にモリカケ問題と伊藤詩織さんのレイプ事件を題材としてしようしています。どちらも決着がついたとは言い難いなお進行中の問題です。逆に言えば、シロクロはっきりさせるのは難しい。そこでリアルで言う加計学園が実は医学部ではなく、生物兵器研究所だった!!という割とトンデモな方向に政府の秘密を作っていくことになりました。まあグレーなこと、ではなく左右どちらの人でもダメ!といえるところに落とさなくてはいけないので仕方ないですし、そこは別にいいです。

 ただ、この作品は実際の事件をイメージさせるだけでなく元文科省事務次官の前川さんや望月記者が映画内の討論番組で実名テロップを出して発言している。更には音楽を殆ど使っていないのでドキュメンタリックなタッチになっています。こうしたことで、あたかも本当に起きているのかもしれない、という錯覚を起こしやすい作り方にしています。

 であれば。実は生物兵器製造のためだったのだ!が判明するためには、自殺した官僚の部屋の、それもカギのかかっていなかった引き出しに資料が入っているとか、当初の謎だった羊の理由とか、その辺が物語のリアリティラインから浮きすぎている印象がありました。内調が調査している人物が庁舎から飛び降り自殺しておいて部屋の資料が撤去されていない、というのには無理を感じる。

 もう一点あげるのであれば、メディアである新聞記者が主人公なのに彼女の相対するのは官僚ばかりで、冒頭の不倫疑惑の相手の野党議員にすら取材をしていない。これだけのニュースに対して、首相とは言わなくても官房長官の会見のシーンぐらいは無いとリアリティもクソもあったもんじゃ無いだろう。

 現実に立脚したフィクションでその境目を曖昧にしていくのであれば、もっとそこにリアリティラインを寄せるか、逆にもっと劇映画としてガンガン音楽をかけたり映画的な仕掛けをしてほしい。

 あとリアルにしたいがためか、幾度か吉岡がツイートし、そこに対するリプライが表示されたりするが、あの辺は望月記者の顔が見えてきて正直ノイズだった。そこに対するリアクションや周囲の反応があれば受け入れられたかも。

3.あえて言おう、プロパガンダになっていないと

 政治を題材にした作品、しかも参院選前の公開だったことで本作はSNSで観測する限り左翼のプロパガンダ映画だ、なんて話をそこそこ目にした。個人的にはだったら右翼がプロパガンダ映画撮って公開してくれていいのよ、見比べたいし、と思うのだが。

 ただ、個人的にこの映画、まっっっったくプロパガンダではない、というのが私見だ。

 確かに敵は政府の内調で国民生活よりも政権の安定のために働き、形だけの民主主義でいい、と多田は嘯いた。その中で内調を裏切って新聞に情報提供する杉原はヒーロー的だと言えるだろう。

 でも、彼らの行動規範はなんだったのか。杉原は職務のうえで一般人を恣意的に公安等の追跡対象に入れていることに違和感こそ覚えているが、表立って反対することはなく、個人的に恩義のある先輩の自殺に対する復讐(といっていいだろう)が動機だ。記者の吉岡も、記者として真実を明かす事を目指してはいるが、誤報を流して自殺した記者だった父の無念を晴らすために、という弔い合戦の色合いを強調されている。つまりこれは思想に則った政府との闘いではなく、あくまで私的な復讐劇を行うのが記者と官僚だっただけの話であり、何だったらポリティカルサスペンスかどうかだって怪しいラインだとすら言えるのだ。

 映画を作る以上、何かを表現することになり、それは必ず政治性を帯びる。描く内容に貧困や差別、家族が入っていたり、キャスティングやスタッフの男女比、衣装だって時には極めて政治的なものになる。自衛隊を登場する怪獣映画が政治的でない、なんてありえない。生きていること自体が政治的なんだからあらゆる映画が政治性を帯びるのは極めて当たり前だ。この映画で描かれる政治は、その程度のものにすぎない、というのが印象だ。この程度でプロパガンダ?受け取り手を少し舐めすぎていないか。

 勿論、この映画を受けて、内調の陰謀が実際に起きているんだ!この映画は真実を語っている!!というのは間違っている。そもそも物語は常に虚構だ。我々の世界の現実はそこにはない。例え、ドキュメンタリーであろうとカメラで切り取った時点で主観や主張が入り込む。

ドキュメンタリーは嘘をつく

ドキュメンタリーは嘘をつく

 

 この映画をきっかけに政治について関心を持つ、自分で調べる、そういう姿勢になればいい、そんなもんではないだろうか。そういった意味でも、この手の映画は持って増えて欲しい。数が増えれば質も研鑽されていくのでは。