抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

あーあ、恋愛なんて面倒くさくて最高。「愛がなんだ」感想

どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 週末のエンドゲームばかりが気になりますが、実は大激戦の19日公開の作品から、今泉力哉監督の「愛がなんだ」を取り上げます。監督の前作、「パンとバスと二度目のハツコイ」も良作だったということで。とりあえず、今泉監督の次回作「アイネクライネナハトムジーク」も見に行こうと決めました。多部ちゃん出てるし。

愛がなんだ


WATCHA4.0点

Filmarks4.2点

(以下ネタバレ有り)

  1.鏡像に配置された人間関係

 この映画、対比や類似した人間関係を大量に投入してきます。

 主人公のテルコは、守のことが好きだがどちらかと言えば都合のいい扱いを受けている。「好き」を言わなくても恋愛なんて20代後半の恋愛はそんなもんで始まるさ、とモノローグし、守のことだけで一杯になって会社を首になるストーカー気質なのは間違いないし、自覚もしている。決定的に社会性の何かが欠けている。

 そんな守はどう考えてもクズ男だが、自分のことを卑下していている。口では大きいことも言ったりするけど、本物の陽キャラという感じもしない。そもそも、テルコとの出会いが友人の友人の結婚パーティのはぐれ者同士、という時点で彼の持っている社交性自体は察しが付く。彼が好きなのは中盤から登場するすみれ。

 すみれはテルコから見ても嫌いなとこばっかで真逆だし、明らかにパリピだし、正直私だって裸足で逃げ出したいタイプの人物。その上、わりとあけすけに物申してしまうタイプで色々波風立てていく役割。ちなみに飲む酒は、いつもワイン。カーストが分かる。(余談ですが、飲む酒の演出は今作は必見。)そして彼女の口から語られる守は、気を回しすぎてるように見えて、いざ付き合ったら自分のこと大好きになるタイプだという。実際、プライベートスペースをテルコに書き換えられた時の守の反応を考えれば当たっているといえるが、この気を回しすぎるという表現は守はテルコに放ったものでもある。すみれ→守は守→テルコでもある。

 もう1組出てくる重要なカップルがテルコの友人葉子と仲原。守が気が向いたらテルコに電話し、テルコはどんな場合でも駆けつけるように、葉子も勝手気ままに中原を呼びつける。まさに類似した関係であるが、その中でも葉子は守のことをテルコから聞くと非難しているし、仲原の話を聞いたすみれも葉子を最低呼ばわりする。

 更には、現在時制のテルコと対比される正直な自分を表現できる子どもの頃のテルコ、男で仕事をクビになるテルコに最後に話しかけるもうじき結婚する同僚、いろんな人がテルコと対比あるいは鏡像的に配置され、誰かが放った言葉は別の誰かにも響く言葉になっていて事実ハレーションが起こって関係が破綻していく。こういう頭の使い方ができる映画は実に面白い。

tea-rwb.hatenablog.com

 

2.惚れさせる役者陣

 「パンとバスと二度目のハツコイ」で不思議な魅力を放ち続けていた深川麻衣さんはこの映画でも最高の輝きを放っていました。前作とは打って変わって持てる者の立場。完璧に惚れました。48グループは昨今ややこしい、というか色々思うところはありますが、卒業後に活躍している方の中でもトップクラスの輝きを放った認識を持たれると確信しています。

 ところがそれと同等の輝きを放つ役者さんが何人も登場したのが本作。

 朝ドラ「まんぷく」では深川麻衣さんと親族関係だった主演の岸井ゆきのさんは、最高に美少女、という訳ではないと思うのですが、冒頭の電話を受けて守の部屋に行き掃除をしだす狂気、そしてその帰り道でロング缶を呷る表情一発で好きになりました。深川麻衣さんも劇中で怒るシーンがあるんですけど、不機嫌な女性好きな人間にはたまりませんでした。橋本愛の系譜を個人的には受け継ぎましたね。あとラップも良かったですよ。

 守役の成田凌さんも良かった。この顔だからテルコが夢中になるのもわかるし、暴君気味なふるまいも許されるんですが、途中でコイツ自分のことカッコよくない側の人間だ、なんて言い始める。本当にかっこよくない側の人間に完全に喧嘩売ってる訳ですけど、だからこそ終盤のテルコの「うぬぼれてない?」がカウンターとして炸裂するんですよね。このセリフ自体はむしろテルコの本心ではなく、中原の行動を受けて、守との接点が無くならないようにするための発言なんですけど、守のキャラ的にはこのカウンターはぐっとくるようになってました。

 同じ男性だと仲原役の若葉竜也さんも素晴らしい演技。「そこのみにて光輝く」の菅田将暉を綺麗にした感じの犬っぽい後輩感が最高に好きだし、葉子を最低と言われた時のリアクションからそこからの反動での訣別、そして唾吐き。心が痛くなるキャラが多い作品の中で彼に会いたくてもう一度劇場に通われる方もいるのでは。

 そして圧巻は江口のりこさん。登場した瞬間から場の空気をすべて持っていく最強さ。キャスティングした時点でこの映画の勝ちは決まっていたかもしれません。いやー、本当に素晴らしかった。煙草をふかす姿のカッコいいこと。

 パンバスでの伊藤沙莉さんも輝いていましたし、今泉監督の俳優さんを輝かせる手腕は間違いないのでは。

3.愛を考える。すなわち"I"を考える。

 最終的な飛躍として、それぞれの登場人物が「好き」について考えて決断を下すわけです。仲原は葉子を好きでいることを諦める選択をし、それをテルコに詰られた葉子は自分から仲原の名前を検索して仲原に会いに行っている。守もすみれを好きという気持ちの為にキープ的存在のテルコにもう会わない、と話をしに行っている。その中でテルコだけは「好き」を超越した「愛」に近い決断を下す。既に好きではない、と伝え会えなくなることを防ぎ、そして33歳の守が仕事を辞めたらなるといっていたゾウの飼育員に。そう、テルコは守が好きなだけではない、守になりたいのだ。

 彼らはみな、自分の好きという気持ちと向き合って考えた結果、自分自身の存在、アイデンティティを問い直している。仲原はアイデンティティが埋没することではなく、写真家としての道を選ぶし、テルコは守と同化しようとしていく。小学生のテルコは問う。それって好きってこと?テルコは答える。うるさい!愛がなんだ。I=私がなんだ。もっと大事なものがあんだよ、このやろー。

 うーん、こういう小難しいこと考えて恋愛映画見てるから恋愛にコスト感じるような人間が出来上がっていくんですかね…とりあえず、中目黒には近づかないようにしよう。あーあ、幸せになりたいっすね。