抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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これぞロードムービー!最強の二人「グリーンブック」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 さあ今回はアカデミー賞で作品賞を受賞した「グリーンブック」。なんとなく作品賞に感じていた文芸作品感は殆どない社会性メッセージを含んだ娯楽作でした。

GREEN BOOK

WATCHA4.5点

Filmarks4.6点

(以下ネタバレ有り)

1.最強の2人

 粗暴で無知なイタリア系白人をドライバーとして雇った知識層の黒人が差別の強く残る南部アメリカを巡る後に…なんていう話は、どう頑張ってもフランス映画の「最強のふたり」を思い出さずにはいられません。あの作品は障害を抱える白人男性と貧民街出身の黒人男性の2人を対比させながら描いていましたが、本作では障害要素が無くなり、組み合わせが変わった感じ。かなり似ているところは多かったと思います。

 まずイタリア系白人のトニー。大家族で暮らしていて、NYのクラブの用心棒をしていて割とすぐに手が出るタイプ。人は忙しない室内ですが、意外と質素でもある。最初に家に来ていた黒人男性に対する扱いで彼の持つ差別意識をしっかり表現することにも成功している。

 一方の、ドン・シャーリー。トニーも言っているようにまるで王族のようにモノばかりある部屋に一人で住んでいる訳で。まさに心の孤独を室内一発で表現することに成功しています。ソ連音楽学校に通うなど完全な知識層にしてギフテッド、音楽の才能が与えられた存在。ケンタッキーの喰い方も知らない。

 そんな二人が旅をするにつれ互いを理解していく。南部の純粋な差別を目の当たりにして納得が出来なくなっていく。シャーリーは孤独を少しづつ解放していく。この交流は正しく「最強のふたり」で描いたものに近く、同様に音楽もまた重要な役割を果たします。印象的なのはやはりケンタッキーフライドチキンを巡る一件。食べ方を分からないシャーリーに無理やり食わせるトニーも面白いですが、その後その骨を窓の外に捨てることでシャーリーとトニーの絆が強まったかに見えたのですが、飲み物まで捨てたら戻って拾え、と。パーソナリティが良く出たシーンでした。ついでに言えば、その後のトニーのピザの食い方も面白かった。

  ↓「最強のふたり」の感想はココに!

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2.しっかりと描かれる差別の現実

 南部の町に旅をしていけば、たくさんの差別の実態を改めて知ることになります。コンサートの主賓であってもトイレは黒人専用、ホテルはシャーリーとトニーは別々で、しかも確実にトニーの方がグレードが上。街に出てBARに入ればボコボコにされ、出会う人々はトニーが金に困って運転手をしているとあざ笑い、警察は夜間の黒人外出禁止を盾にあからさまな差別発言もする。最終地点では、コンサート会場なのにレストランで食事もできない。そして店主は言う。個人的な差別ではなく、土地のルールだ、と。

 こうした差別の実態はなんとなく分かってはいてもトニー同様目の当たりにすると中々にショックですし、それって今も我々に残ってない?なんて問いかけを感じます。

 この問いかけが顕著なのが最後にNYに向かって走っていく時に警察に止められた時。トニーも我々も前例が故にまた警察が…なんて思ってしまいます。しかし、この警察官はただパンクを教えてくれただけで、交通整理もしてくれるいい人。直前でシャーリーが言っていた服装で人を判断するのは良くない、なんて言葉がリフレインします。

3.差別だけじゃない壁

 トニーは旅先から奥さんに手紙を送りますが、途中からその手紙の文面をシャーリーが指導するようになり、トニーは最後には素敵な文筆術も獲得します。トニーのそうした行動を見ながら、シャーリーもいまや没交渉になった兄のことを考え、そして最終的にトニーの一家のクリスマスパーティに参加する、城から降りてくる決断ができるようになったわけです。

 こうしたシャーリーの壁というのは、黒人という彼を構成する外したくても外せない要素と彼自身の才能、生活環境の結果残ってしまったもので正直彼自身に原因を求めるのは酷。そんな壁をぶち壊してくれたトニーという存在がいかに救いなのか。この点が逆にアメリカでは白人がヒーローなだけだと批判を浴びてるようですけど、相互に救済しているように感じるのでそんなに気にはならなかったですね。

 また、ドン・シャーリーのキャラクターが世俗を知らないことから生まれるギャップがコメディになっているわけですが、個人的には先日「ブラックパンサー」についてTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で言っていた黒人ラッパーが金持ちになりすぎて、そっちに資源分配しろよというダイレクトなメッセージだ、なんていうこととも重なったりしていました。


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 全体を通して、完全なコメディで娯楽作。ちっともウェットじゃないロードムービーで、誰とは言いませんが最近見たロードムービーの監督さんにこれがロードムービーだよ、と見せてやりたい作品でした。