抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

耳で聴く映画体験「THE GUILTY/ギルティ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 1日おきに劇場で2作品見れば毎日更新ですよー。今回はTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で異例の2回取り扱われたデンマーク映画。音だけを頼りに事件を解決に導く「THE GUILTY/ギルティ」です。どうでもいいですが、デンマークのサッカーチームといえばコペンハーゲンFC、オーデンセ、ノアシェランぐらいしか知らなかったんですが、ノアシェランって北シェランって意味だったんですね。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.4点

(以下ネタバレ有り)

 

1.音だけを頼りに脳をフル回転!!

 今回の映画は88分間殆どカメラは部屋から動かず、112番を受信し警察や救急につなぐオペレーションセンターのアスガーの視点のみで進行します。そのため、電話の向こう側で何が起きているのか、観客は勿論、アスガーにすら完璧には把握できない状態であり、そのこと自体を逆手に取ったミステリ的要素が強めの作品となっています。

 そのネタ、どんでん返し自体は後述するとして、演出的な話を。舞台となる部屋は2か所。最初と最後にいるみんなもいる明るめの部屋と中盤以降閉じこもる真っ暗な部屋。これは物語の進行に伴ってどんどん事件にのめり込んでいくアスガーの視野の表現として非常に優れていたように感じました。

 耳から聞こえるものしかないので、アスガーの言葉に誘導されながらも想像力をフル回転して考えないといけない。あっ、車のエンジン音がする、とか、扉を開けたぞ、とか。集中力を要求するタイプの映画であり、それがエンタメ性を担保しているのは間違いないでしょう。途中で笑いの漏れた自転車の衝突事故の電話も、よくみたら電話の発信基地が同じあたりだったので、もしかして真面目に対応していたらぶつかった車が事件車両だったのでは、なんていう答えのない悪戯なんかもありました。

2.ネタの弱さが否めない……

 さあ、そして肝心かなめのネタバレ厳禁の部分なんですが、端的に言えば電話してきた女性イーベンが元夫に誘拐され、元夫は息子を殺害していた、という事件だと思いきや、殺したのはイーベンであり、元夫は精神病院に連れていこうとしていた、というもの。これに気づかず男を前科や声色で悪人と決めつけてのめり込んでしまう偏見、そしていざ真実を知ったイーベンの自殺を自らの殺人の告白によって食い止める、というお話なのですが…。

 いやー正直かなり早い段階で気づいちゃったんですよね。正直ミステリにおいて、かなり初歩的にして単純な構図というか。しかも本作、イーベンからの電話がかかってくる前にアスガーは麻薬をやって中毒症状の出た患者と風俗街で盗みに遭った男性の対応をしているわけですが、麻薬中毒の患者に対して言った「深呼吸しろ」という台詞をイーベンにも言っている。ある程度マニュアルで言うんだろうにしても、通話相手の状態を推し量るには十分でしょう。

 結果、まさかそれだけで終わるはずあるまい、と更なるツイストを期待していたらそのまま終わってしまった感が否めず、正直ネタバレ厳禁と言われまくった割に大したことねぇじゃん、と。世の中のミステリ偏差値こんなもんかよ、『葉桜の季節に君を想うということ』でも読んで来いこの野郎、なんて思いました。どうしても比較対象とされざるを得ない昨年のPC画面から出ない傑作「search/サーチ」と比較すると謎解きのスッキリさとかは大きく劣るので、ミステリ映画として期待したのが失敗だったのでしょう。

 ついでに言えば、その2人の対応の時点で通報を受ける、情報を聞き出す、いったん保留にして警察につなぐ、本人に通知、の流れを教えているのでフォーマットを提示しながらヒントも出している形になるので上手ではあるんですよね。

tea-rwb.hatenablog.com

3.誰がギルティ=有罪なのか

 序盤から、どうやらアスガーは何らかの裁判を控えた警察官で、本来このオペレーターが本職でないことが示唆され、裁判が終われば現場復帰できることがいろいろと言われています。これがラスト、イーベンの説得にあたる際に正当防衛に見せかけて犯人を射殺したことが明らかになり、ギルティだったのはイーベンじゃない、アスガーだったのだ…的な展開になる訳なんですが。
 うーん、コレに納得がいかない。ギルティ候補を考えてみましょう。
  • イーベン

 自分の息子を殺していますが、その罪に気付いて自殺を考えるレベルでショックをうけているし、裁判的に考えれば心神喪失で無罪。アスガーだって意図なき殺人だ、事故だと擁護しています。よって本作ではノットギルティ。

  • ミケル

 娘を守ろうとしたのは事実ですが、裁判所の取り決めを破って会いに行っていた理由は謎。警察に通報せず、犯人を隠匿する意図もあるようだが、殴られたので制裁は受けたとしてノットギルティ。

  • アスガー

 偏見・予断を持ってオペーレーター業務にあたり、自業自得だなんて言っている勤務態度もよろしくない。あげく、警察側に言われても無視して繋ぐ仕事なのに捜査を始めてしまって、イーベンにミケルを場合によっては殺すことを教唆している。正直、彼の告白した殺人が無かったとしても、正義の暴走であり、完全なギルティである。

  • 社会

 正直言って、ここが最も違和感のあるところ。アスガーに対して警察組織の仲間たちは彼の自主的な捜査を止めないばかりか、協力したり、アスガーの起こした事件の真相は闇に葬ろうとしている。そういった意味で警察組織が腐っていると断罪せざるを得ないのは事実なのだが、それ以上になんでそんな奴が命を握るオペレーション業務に就いているのか。高負担高福祉で有名な北欧のなんらかの特殊なシステムなのかもしれないが、裁判が終わっていない殺人者を警察に関連する業務に任命している…?日本であれば当然拘留あるいは自宅謹慎といった処分で然るべきであり、アスガーの殺人が無罪になるとしてもそれまでの間にこの業務をさせるのはおかしいのではないだろうか?ここがどうしても引っかかってしまった。結局今回の正義の暴走を許してしまったのは社会のシステムであり、それがギルティ。この仕組み自体を告発したい映画なら大成功だと思うんですが、多分違いますよね?