抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

もはや家族はホラー。「ジュリアン」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回見てきたのは、ぷらすと×Paraviの冬のトレーラー祭りで見つけた「ジュリアン」。新作2発目にして、2019年ベスト級が早速の登場でございます。

ジュリアン[Blu-ray]

WATCHA5.0点

Filmarks4.9点

 (以下ネタバレ有り)

 

1.地獄の父親

 まず始めは離婚調停から。ジュリアンという11歳の息子の親権が争点。夫アントワーヌの代理人だけがヒートアップして裁判所の人に注意されてます。後を暗示していることになる訳ですが。とはいえ、夫自身は落ち着いていてもしかして奥さんのミリアムが悪者で吹き込んでる可能性もまだ否定できず。前情報が無い段階だと、どっちが本当に悪いのか、嘘つきなのかは即断しかねる訳です。

 その調停の結果、共同親権となったようでジュリアンは普段はミリアム・長女のジョゼフィーヌと暮らし、隔週末にアントワーヌと過ごすことに。

 その初日。迎えに来た車のクラクションとインターホンの連打。この時点でどうやらアントワーヌの方がクソ野郎だとすぐわかる。ジュリアンを乗せた後の車の急発進は彼の瞬間湯沸かし器を象徴しているんだろう。更に怖いことに、アントワーヌはジュリアンが寝静まってから荷物を漁って、母親の電話番号を控えてあることを確認したうえで次の日にジュリアンに命令して出させる。こっそりメモるより最悪です。

 次の週末では、ジョゼフィーヌのパーティの出席の為にアントワーヌと過ごす週末をずらして欲しいと要求をすると、ミリアムを出せとごねるアントワーヌ。子ども相手にこのやり口が卑怯なうえで、うっかりアントワーヌの母の発言からミリアム達が逃げ出した新居の大体の居場所を察してからは豹変。食事中なのにジュリアンに詰め寄ります。ここでアントワーヌは自身の父に怒られ、放逐されるわけだが、この時の車のシートベルトの警告音の演出によって、ジュリアンとの最初の週末と違いブチギレてることがわかる。この作品は、こういう音とか演出が抜群に上手い。

 ジュリアンは何とか一回は嘘をついて母親を守ろうとするものの、姉弟を付け回すようなことを言われて、結局新居に侵入を許す。この時も、エレベーターの中で鍵を返してあくまでジュリアンが自発的にやったんだと共犯者的感覚を子どもに持たせようとしている。「俺にはお前らの新居を知る権利がある」的なことまで言うし。ほんと最悪。妻に再会したら「俺は変わった」と泣き出す始末。典型的なDV夫パターンですかね。

 

 そんな恐怖体験はありながらも、なんとかつかの間の平穏が訪れ、パーティのお時間。ジョゼフィーヌが歌ったりと大変楽しい時間を見ているこっちも過ごせるわけですが、そこにも実家を追い出された勢いで乱入してこようとするアントワーヌ。実家を追い出された際に車に詰め込んだ荷物で狭くなった車内が、彼の心の容量不足を表していそう。しかも今度は娘にプレゼント持ってきた、が理由。そしてミリアムに完全に逆上して言う事が「俺はお前の何だ」。そして新恋人?なのかも描写はされない男に嫉妬。ミリアムの妹の助けもあって逃げ出したと思うと、本当の恐怖はここから。

 夜中に新居の家を鳴らすインターホン、そして叩かれるドア。発砲。ここまで、「ママを殴らないで」という車中のジュリアンの台詞はあったものの、実質的な暴力描写はこれが初めて。溜めて溜めてのこれ。しかも明かりをつけられない、完全に自分も一緒に襲われている感覚。全編通してパーティシーン以外音楽も殆どかからないので、ここの静粛、遠くで聞こえる音が本当に怖い。完全にホラーですよ。

 そしてラストは発砲されて穴だらけのドアが閉まり、それを覗いていた(通報してくれたんだから当然気になるわな)おばあさんの部屋のドアも閉まって終わる。宇多丸師匠のおっしゃるドアが閉まって終わりに外れ無し、今回も継続。更にそっからエンドロールも無音。余韻がすごいんじゃ。

2.役者陣の見事な演技。

 特筆すべきはジュリアン役のトーマス・ギリオア。心の底から嫌がりながらも、仕方なく受け入れている顔、本気で立ち向かう顔、パーティですべてを忘れて年相応に踊り楽しむ顔。そして恐怖におののく顔。顔がほんとうに100億点。基本的にお父さんが怖いので、受けの演技になる訳ですが、本当に素晴らしかった。

 その旦那役のドゥニ・メノーシェ。見るからに体が大きく、怖い。ジュリアンと車内で隣同士のシーンが多いので非常にそれが際立つ。しかも一瞬で泣いたりキレたりするのもうまい。

3.家族の地獄

 断ち切りたくても断ち切れない家族という地獄。夫の両親は割といい人なのがまだ救いだが、司法はこの現実を止められなかった。共同親権、という考え方が引き起こした悲劇だが、日本ではどっちかっていうと単独親権が多く、それはそれで問題があるわけだが、本作のように子どもを置き去りにした「子どもが親に会う権利」を主張する親に対してどうすればいいんだろう、などとも考えてしまいます。

 この辺の話は監督のインタビューにもあったので是非! 

www.neol.jp

 正月ぐらいに見た日本映画「葛城事件」でも三浦友和さん演じる父親の地獄っぷりが描かれていましたが、本作もそれに匹敵する地獄っぷり。作品としては演出でこっちに高得点を付けましたが是非どちらもご覧いただきたいです。特に、「リメンバー・ミー」が好きな人、「未来のミライ」が好きな人及び細田守監督に。家族is最高、というのはどうしても素直に受け入れられないのです。