抹茶飲んでからマラカス鳴らす

見た映画、読んだ本、見たアニメ。そんな話を中心に。。。

またも傑作が韓国から。「1987、ある闘いの真実」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 昨日までお届けした名画座作品群。名画座デビューも今年でしたが、此方も今年デビューの韓国映画。2本見てどちらもアベレージが高かったのですが、またもやってくれました。すげーや、韓国。

 ちなみにこちらの作品はTBSラジオ「セッション22」にて特集が組まれました。ラジオクラウド限定で監督インタビューも音声が公開されているのでそちらもぜひ。

www.tbsradio.jp

1987、ある闘いの真実 (字幕版)

 

WATCHA5.0点

Filmarks4.8点

(以下ネタバレ有り)

 1.主人公のいない物語。だからこそ価値がある。

 今回のお話は以前鑑賞した「タクシー運転手 約束は海を越えて」で扱われた光州事件の更に数年後。韓国が軍事政権を打倒して民主化を達成する場面になります。

 中心に登場する人物は検察官、記者、看守、看守の娘、そして対共捜査局長、その捜査の相手である民主化運動のリーダー。最初から最後まで一貫して登場するのは警察サイドの人間だけですが、彼らはヒール。権力が巨悪となったときに、市民が1人1人正義に則って戦う姿が描かれていて、韓国の民主化が国民の手で達成された、という言葉の意味を知ることになるわけです。だからこそ、主人公のような存在がいないことに意味が生まれます。

 また、映画を通して成長するのは看守の娘であるヨニ。演じられてるキム・テリさんの可愛さに目を奪われがちですが、一般の大学生だったはずのヨニが大学で光州事件の映像を見てショックを受け、不純かもしれない動機(恋愛やプレゼントとの交換条件)で運動に身を投じていくことになるわけです。その過程で家族の優しさや、正義とは何かを学んでいき、決定打となる恋したリーダーの受傷。その追悼集会でついにバスの上に立った時、初めて同じように立ち上がった民衆の全貌のショットが現れる。なんでもない大衆の1人1人が考え、自ら立ち上がって韓国の民主化が達成された、ヨニがやってこないといった「その日」がやってきたのだ、という厳然たる事実をこれ以上なく鳥肌の立つラストで明示してくれているわけです。

tea-rwb.hatenablog.com

 2.最高のヴィラン

 演じた役者のみなさんも最高で、中でも素晴らしかったのは警察の反共捜査局長を演じたキム・ユンスクさん。どっからどう見ても悪役の風貌にふてぶてしさ、自身は脱北者であるという背景を感じさせる狂気じみた執念、不機嫌さが伝わってくる手に持った石のこすり合わされる音。彼の腰巾着連中の横暴さも相まって、これ以上ない悪役っぷりを見せてくれました。それにしたって、光州事件を経てもなお、反共の名目でここまでの暴力が容認されている組織、って恐ろしいことこの上ないですよね。

 だからこそ、ラストで彼らが最初のターゲットにしていた検事が痛快にやり返した瞬間は最高にざまぁ!!な訳です。その一方で局長たちもまた、彼らが最初にそうしようとしたようにトカゲの尻尾切りの尻尾の根元の方にすぎないっていうのが病巣が深い。名前としては最後の方に出てきますが、「閣下」の顔色を窺い、先回りして隠ぺい・火消しを行い、さっさと処分する。体制を守るために家族を裏切れと脅し、従えば愛国者、従わなければアカ。ひっどいと思うと同時に、同じようなことが日本にまったくないのか…?と問われると胸を張って無いといえないのも正直なところ。

 役者さんでもう一人言及しておきたいのは、ユ・ヘジンさん。「タクシー運転手」でもとてもいいひとで且つ、気概のある人物を演じましたが今回は正義の為に反政府活動を行い、情報も密輸し、果ては拷問されても口を割らないというタフなところまでみせる役柄。健気でかわいいおじさんをまたも演じてくれて、いい俳優さんだなぁと思いました。

3.監督インタビューを聞いて

 まず衝撃を受けたのが「タクシー運転手」を含めて企画の始動当時の李明博朴槿恵政権下では文化人のブラックリストを作っていて、反政府的な創作活動に圧力がかかっていたこと。この時代に明確な言論弾圧が韓国で起こっている、という事実に驚くと共に、だからこそこういった映画を作るんだという強い意志を感じました。

 そんな中出てきた言葉で印象的なのが「民主主義とは何か」の答えはまだ探している途中だ、という趣旨の監督の発言。辞書的な定義はともかくとして、何が民主主義なのか、それは何をもって定義されて、誰の合意が必要なのか。

 正直、世界中日本を含めてどこにもまだ答えの出せていない、むしろ答えが遠のいているとすら感じるこうした問いをしっかりと抱えたまま、自国にとっての汚点と闘争の歴史、勝ち取ってきた権利を映像化して国外にも売り出せるだけでなく、それがただの伝記・記録的な映画ではなく、エンターテインメントとして成立しているという事実に韓国映画界すげぇ、とひれ伏すしかないです。日本でこういう映画が撮れるのか。太平洋戦争までの反省がなされるようなエンターテインメントはあっても、戦後政治に関してそれがあるのかなぁ?と思ってしまいます。